「Web広告は、月いくらから始めるべきか」。社内で予算を立てるとき、最初に調べるのはたいてい相場である。検索すれば、手数料の料率や最低出稿額の目安がいくつも並んでいる。だが、その数字を社内に持ち込んだ瞬間に議論が止まる。「で、うちはその額を出して、何件受注できるのか」と聞かれて、答えられないからである。

相場が答えを出さないのは、情報が古いからでも、探し方が足りないからでもない。Web広告のクリック単価は、業種ごとの固定値ではなく、検索が起きるたびに競合状況と自社のページの品質から算出される。つまり、他社の平均額は、自社が払うことになる額とは別の数字である。相場表は、はじめから自社の必要額を答える設計になっていない。

スリーハンドレッドは、広告代理店・制作会社をはじめとする受託型のBtoB事業者に対して、受注と粗利を成果地点に置いた支援を行っている。この記事では、相場から入るのをやめ、受注目標からさかのぼって必要な月予算を出す手順を、5つの数字に絞って説明する。あわせて、逆算した額が出せないときに何を削るか、予算が足りているかをどう確かめるかまでを扱う。

この記事の要点

  • クリック単価は検索のたびに競合状況・品質・文脈から算出されるため、他社の相場は自社の必要額を示さない。
  • 必要な月予算は、受注目標・受注率・商談化率・CVR・クリック単価の5つを掛け戻せば出る。足りないのは情報ではなく、自社の率である。
  • 逆算した額が出せないときに下げるのは予算ではなく、狙う検索語の範囲である。予算だけを削ると、表示が止まって判断材料も残らない。

「月いくらから」に相場で答えられないのは、クリック単価が検索のたびに決まるからである

相場表が役に立たない理由は、精度の問題ではなく、仕組みの問題である。検索広告の単価は、あらかじめ決まった価格表から引かれるのではなく、検索が起きるたびに計算されている。この前提を飛ばすと、調べるほど判断が遅れる。

「月いくらから」を相場で決めると起きること クリック単価は検索のたびに決まるため、他社の相場は自社の必要額を教えない 相場表|答えていないこと 業種・地域ごとの 競合の密度が入っていない 自社のページの品質が 反映されていない 受注1件あたりの粗利と 結びついていない 広告ランク|単価の決まり方 検索のたびに競合状況と 文脈から算出される 入札単価は上限額で、 実払いは通常それより低い 品質が高いほど クリック単価は低くなる 「相場」と「自社の必要額」の断絶 予算が尽きて表示が止まる 粗利に合わない額を払い続ける
図1|相場表には自社の競合密度・ページの品質・粗利が入っておらず、必要額を答えられない。

広告ランクは、入札額ではなく6つの要素から検索ごとに算出される

Google広告は、広告を掲載するかどうかと掲載位置を「広告ランク」という数値で決めている。公式の説明によれば、広告ランクは検索のたびに、その時点の競合状況や検索の文脈などを基に算出される。

構成要素は6つある。入札単価、広告とランディングページの品質、広告ランクの下限値、オークションにおける競争力、検索の文脈(検索語句・所在地・デバイス・時刻など)、広告アセットなどの効果である。このうち、他社の相場表に反映されているものは一つもない。自社のページの品質も、自社が戦う地域の競合密度も、相場の平均値には含まれていない。

入札単価は上限額であり、実際の支払額は自社の品質で変わる

もう一つ、相場の読み方を狂わせる事実がある。入札単価はクリック1回あたりに支払う上限額であり、実際の支払額は通常それより少ない。さらに、一般に広告の品質が高いほどクリック単価は低くなる。

つまり「このキーワードのクリック単価は◯円」という言い方は、本来は幅のある変動値を、固定値のように見せている。同じ検索語に出稿しても、ページの作りが違えば払う額は変わる。クリック単価は、外から調べる数字ではなく、自社が出稿して初めて分かる数字である。

だから相場表は、予算の下限も上限も決められない

ここまでをまとめると、相場表が答えていないのは3点である。業種・地域ごとの競合密度、自社のページの品質、そして受注1件あたりの粗利との関係。この3つが入っていない数字は、出稿の可否を判断する材料にならない。

結果として起きるのは、二つの失敗である。相場の下限に合わせて少なく出し、予算が尽きて表示が止まる。あるいは相場の中央値に合わせて出し、受注の粗利に合わない額を払い続ける。どちらも、金額を間違えたのではなく、金額を決める起点を間違えている。

予算は「出せる額」ではなく、受注目標から5つの層をさかのぼって決める

起点を受注に移すと、必要な月予算は計算で出る。広告費は、受注・商談・問い合わせ・クリック・表示という5つの層を、上から順にさかのぼれば求まる。相場を調べる必要はない。必要なのは自社の率である。

逆算は、受注から表示の手前までさかのぼる

順序は固定である。まず月に何件の受注が必要かを置く。次に、商談から受注に至る率で割って必要な商談数を出す。さらに、問い合わせから商談に至る率で割って必要な問い合わせ数を出す。最後に、クリックから問い合わせに至る率(CVR)で割って必要なクリック数を出し、クリック単価を掛ける。

この順でしか計算できないのは、各層の率が自社固有だからである。同じ業種でも、商談の進め方が違えば受注率は変わる。層の数は5つだが、自社で用意するべき数字は、受注目標・3つの率・クリック単価の5つだけである。

各層の率は、相場ではなく自社の実績から取る

率を調べようとすると、また相場に戻ってしまう。だが受注率や商談化率は、広告の話ではなく営業の話であり、自社の商談記録の中にある。過去半年の商談数と受注数を数えれば、受注率は今日のうちに出る。

問い合わせから商談への率も同じである。問い合わせ台帳があれば数えられる。数えられない場合は、まず記録の形を整えるほうが先であり、そこが整っていない状態で予算だけを決めても、後から成否を判定できない。この点は、問い合わせの手前に置く指標の記事で詳しく扱っている。

問い合わせの“手前”の指標|マイクロコンバージョンの3条件

必要な月予算は、5つの数字を入れれば出る

ここから具体的に計算する。以下の数値はすべて説明のために置いた設計上の数であり、実在の企業の実績ではない。自社の数字に置き換えて使うことを前提にしている。

必要な月予算を出す、3つのステップ 受注の目標から、表示の手前までさかのぼる。順番を変えると額が決まらない 1 受注目標 年間ではなく、 月あたりの件数で置く 目標がないと、予算は “出せる額”で決まる 2 3つの率 受注率・商談化率・ CVRを自社の実績で入れる 実績がなければ 設計上の数と明記する 3 クリック単価 相場ではなく、 実測かテスト出稿で取る 同じ語でも会社ごとに 単価は変わる 5つの数字を掛け戻す = 必要な月の媒体費
図2|受注目標・3つの率・クリック単価の5つを掛け戻すと、必要な月の媒体費が出る。

STEP1|受注目標:年間ではなく、月あたりの件数に落とす

年間の売上目標から入ると、広告の判断に使えない。広告は日単位で動くため、月あたりの受注件数まで落とす必要がある。ここでは、月の受注目標を1件と置く。

この時点で、受注1件あたりの粗利も並べて置く。ここでは1件あたり60万円とする。粗利を置かずに予算だけを決めると、後で「この額を払う意味があったのか」を判定できない。

STEP2|3つの率:受注率・商談化率・CVRを自社の実績から入れる

次に3つの率を入れる。商談から受注への率を25%、問い合わせから商談への率を50%、クリックから問い合わせへの率(CVR)を2%と置く。いずれも業種と商材で大きく変わるため、ここでは計算の形を示すための数値にすぎない。

STEP3|クリック単価:相場ではなく、実測かテスト出稿で取る

最後にクリック単価を入れる。ここでは500円と置くが、前章のとおり実際には検索ごとに変わる。自社の数字を持っていない場合は、期間と上限額を区切ったテスト出稿で実測を取るのが最短である。推定値のまま本番予算を組むと、ずれたときに原因が単価なのか率なのか切り分けられない。

試算|月1件の受注に、媒体費20万円が必要になる場合

5つの数字を掛け戻すと、次のようになる。

層必要量使った率・単価
受注1件月の目標として設定
商談4件受注率 25%
問い合わせ8件商談化率 50%
クリック400回CVR 2%
媒体費20万円/月クリック単価 500円

月20万円という額そのものに意味はない。意味があるのは、この額が受注1件の粗利60万円に対して約33%にあたると分かることである。ここに運用代行費と制作費が乗る。判断の材料がそろうのは、この比率が出た時点である。

同じ計算を、受注1件あたりの粗利が15万円の商材に当てはめると、媒体費だけで粗利を超える。このとき必要なのは予算の見直しではなく、検索広告という手段が商材に合っているかの判断である。相場表からは、この結論は決して出てこない。

決めた月予算は、1日の平均予算に割り戻されて使われる

月額で決めた予算は、そのまま月額で消化されるわけではない。Google広告の予算は日単位で管理されており、月の上限は1日の平均予算から逆算されている。この仕組みを知らないと、初月の消化額を見て誤った判断をする。

1か月の費用の上限は、1日の平均予算の30.4倍である

Google広告の公式の説明では、1か月の費用の上限は、ほとんどのキャンペーンで1日の平均予算の30.4倍とされている。30.4は1か月の平均日数であり、365÷12で算出されている。

したがって、先の試算で出た月20万円を設定したい場合、1日の平均予算は約6,600円になる。月額を30で割る習慣があると、ここで小さなずれが生じる。

日ごとの費用は、平均日予算の2倍まで動く

同じ説明によれば、1日の費用の上限は、ほとんどのキャンペーンで1日の平均予算の2倍である。日によって費用は平均日予算より高くなる場合と低くなる場合がある。

この変動は仕様であり、異常ではない。初日に平均の2倍使われていても、月の上限を超えることはない。日ごとの消化額を見て入札や予算を触るのは、最も避けるべき操作である。判断は、月の区切りか、成果の件数がたまってから行う。

逆算した額が出せないときは、予算ではなく範囲を削る

逆算すると、たいていの場合は「その額は出せない」という結論になる。ここで予算だけを減らすと、最悪の結果になる。予算を削って表示が途切れると、成果が出ないだけでなく、判断に必要な件数すらたまらない。削るべきは、金額ではなく範囲である。

狙う検索語の範囲を、受注に近いものだけに絞る

最初に削るのは検索語の幅である。情報収集の段階で使われる語を外し、発注を前提にした語に絞れば、必要クリック数は減り、CVRは上がる。結果として、同じ予算で届く受注件数が変わる。

どの語を残すかの基準は、広告のキーワード選定を扱った記事で詳しく整理している。

BtoBリスティング広告のキーワード選定|検索語句の“範囲”と成果地点を決める

期間を区切り、本番ではなくテスト出稿に切り替える

次に削るのは期間である。通年の出稿をやめ、期間と上限額を決めたテスト出稿に切り替える。目的を受注獲得ではなく、クリック単価とCVRの実測に置き換える。

テストの出口は、継続か撤退かの判断である。出口を決めずに始めると、少額出稿が惰性で続き、どちらの材料も残らない。

それでも合わないなら、その商材は検索広告に向いていない

範囲も期間も絞ってなお粗利に合わないなら、結論は撤退である。検索広告は、すでに探している人にしか届かない。検索されていない商材、あるいは検討期間が長く広告の寄与を判定しにくい商材では、他の手段のほうが早い。

「向いていない」という結論に早く到達することも、予算設計の成果である。合わない商材に出稿し続けるより、判断に使った時間のほうがはるかに安い。

予算が足りているかは、表示の割合と受注の両方で確かめる

出稿を始めたあと、「予算を増やすべきか」は感覚で判断されがちである。予算の過不足は、表示の取りこぼしと受注の実績という、2つの別々の指標で確かめる。片方だけでは判断を誤る。

インプレッションシェアは、表示できた割合を示す

Google広告にはインプレッションシェアという指標がある。公式の定義では、広告が表示可能だった合計回数のうち、広告が実際に表示された回数が占める割合である。

この値が低いということは、出られたはずの検索に出られていないということである。原因が予算にあるのか、広告ランクにあるのかで打ち手は変わるが、いずれにせよ「まだ取りこぼしがある」という事実は、この指標から読める。

増やす判断は、受注まで追えてから下す

ただし、取りこぼしがあることは、予算を増やすべき理由にはならない。増やしてよいのは、現在の予算で取れている問い合わせが、商談と受注まで到達していると確認できた場合だけである。

問い合わせの件数だけを見て予算を増やすと、確度の低い問い合わせが増える。この構造は、CVが増えても売上が増えない現象として別稿で扱っている。

広告のCVは増えたのに、売上が増えない|成果を受注・粗利に付け替える4つの手順

稟議を通すのは金額の根拠ではなく、外れたときの打ち手である

逆算で額が出ても、社内で止まることがある。決裁者が確かめたいのは金額の妥当性ではなく、前提が外れたときに誰が何をするかである。相場を根拠に出すと、この問いに答えられない。

前提の数字と、見直しの時期を同時に出す

提出するのは金額だけではない。置いた5つの数字、そのうち実績値と設計上の数の区別、そして「どの数字がどれだけ外れたら見直すか」をあわせて書く。前提が明示されていれば、外れたときの議論は、責任の追及ではなく数字の修正になる。

稟議に必要な材料の揃え方は、別稿で整理している。

「社内で検討します」の後|稟議を通す材料4点

料金形態の選択も、同じ前提の上で決める

運用を外部に任せる場合、料金形態によって、前提が外れたときの負担の分かれ方が変わる。広告費に比例する料率で支払う形と、成果の件数や粗利に連動する形とでは、予算が増えたときに誰の取り分が増えるかが違う。

この比較は、依頼範囲の整理とあわせて柱の記事で扱っている。

スリーハンドレッドは、予算を決める前に成果地点を設計する

当社は、受託型のBtoB事業者に対して、広告の運用そのものより前に、何を成果と呼ぶかの設計から入っている。予算の議論が相場に戻ってしまうのは、たいてい成果地点が問い合わせ件数のまま置かれているからである。

成果地点を受注と粗利に置き直すと、必要な予算は計算の対象になり、出すか出さないかの判断ができるようになる。自社の率がまだ数えられる状態にない場合も含めて、どこから手をつけるべきかは無料診断で整理できる。成果地点の決め方そのものは、次の記事で扱っている。

成果報酬の“成果地点”の決め方|契約前に決める4項目

まとめ|予算は相場ではなく、受注目標から決まる

Web広告の月予算を相場で決められないのは、クリック単価が検索のたびに算出される変動値だからである。他社の平均額には、自社の競合密度もページの品質も、受注1件あたりの粗利も入っていない。

代わりに置くべき起点は受注目標である。受注・商談・問い合わせ・クリックの4段をさかのぼり、クリック単価を掛ければ、必要な月予算は出る。出せない額だった場合に削るのは、予算ではなく狙う検索語の範囲である。予算の議論が止まるのは金額が決まらないからではなく、受注から数える習慣がないからである。

よくある質問

Q. 自社の受注率やCVRの実績がない場合、どう始めればよいか。

実績がない場合は、設計上の数を置いて計算し、「これは仮の数値である」と明記したうえで出稿する。重要なのは精度ではなく、どの数字を仮に置いたかを記録しておくことである。記録があれば、実測が出た時点で予算を組み直せる。最初から正しい数字を求めると、着手が遅れるだけである。

Q. 最低出稿額や手数料の相場は、まったく参考にしなくてよいのか。

交渉の場で提示額が妥当かを見る材料にはなる。ただし、自社がいくら出すべきかを決める根拠にはならない。この記事では、公開されている相場レンジを数値として扱っていない。一次情報で裏取りできた範囲に限って数字を出す方針のためである。

Q. 月の予算を途中で変更してもよいか。

変更自体は可能だが、日ごとの消化額を見て触るのは避けるべきである。Google広告では1日の費用が平均日予算の2倍まで動くため、短期の振れを異常と見誤りやすい。変更は、月の区切りか、受注まで追える件数がたまった時点で行う。

Q. 広告費全体が伸びているなら、予算も増やすべきか。

市場の伸びは、自社の必要額とは別の話である。2025年のインターネット広告費は4兆459億円で前年比110.8%、総広告費に占める構成比は50.2%と初めて過半数を超えたが、これは出稿者が増えていることも意味する。競合が増えればオークションの競争は激しくなる。市場が伸びているからという理由で増額するのではなく、受注からの逆算で判断する。

Q. 成果報酬型であれば、予算の逆算は不要になるか。

不要にはならない。報酬の払い方が変わっても、広告の媒体費と、受注1件あたりの粗利との関係は残る。むしろ成果の定義が受注や粗利に置かれるほど、逆算の前提を事前にそろえておく必要がある。

出典:電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日発表)/Google広告ヘルプ「1日の平均予算について」/Google広告ヘルプ「広告ランクについて」/Google広告ヘルプ「インプレッション シェアについて」