Web広告の運用代行を検討するとき、多くの会社がまず「手数料の相場」を調べる。広告費の何%が妥当なのか、初期費用はいくらが普通なのか。ところが数社から見積もりを取ってみると、料率はほとんど横並びで、それでいて提案の中身はまるで違う。結局どこに頼めばよいのか、判断の軸が見つからないまま時間だけが過ぎる。
これは調べ方が足りないのではない。運用代行の価格は、やる仕事の範囲が決まって初めて意味を持つのであって、範囲を決めずに金額だけを並べても比較にならないからである。同じ「広告費の20%」でも、キーワードの調整だけを指す場合と、ランディングページの改善や問い合わせ後の追客まで含む場合では、買っているものが別物になる。
スリーハンドレッドは、BtoB企業のWeb広告運用を成果報酬型で請け負っている。この記事では、運用代行に渡せる仕事を4つの層に分けたうえで、外注しても自社に残さなければならないものと、依頼範囲を決める順番を整理する。料金形態そのものの比較は別記事に譲り、ここでは「何を、どこまで頼むか」に絞る。
この記事の要点
- 運用代行の手数料には、公的な一次統計が見当たらない。相場を調べても依頼先は決まらず、決め手になるのは依頼範囲である。
- 渡せる仕事は4つの層(媒体の中の運用/媒体の外の受け皿/止める判断/成果の計測)に分かれる。どこまで渡すかで、同じ金額でも中身が変わる。
- 外注しても、アカウントの管理者権限・成果地点の定義・顧客理解と訴求の原資の3つは自社に残す。ここを渡すと、検証も乗り換えもできなくなる。
運用代行の検討が“相場探し”から始まると、決められないまま終わる
相場を知りたくなるのは自然な反応である。だが広告運用代行の手数料には、価格の妥当性を判定できるだけの共通の物差しが存在しない。相場という言葉で流通している数字は、比較の出発点にはなっても、判断の根拠にはならない。
手数料の相場に、一次統計は見当たらない
「広告費の20%」という数字は、運用代行を扱う記事のほとんどに出てくる。しかしその出どころをたどると、運用代行を提供する会社が運営するメディアや、比較サイトの記載に行き着く。官公庁や業界団体による調査、つまり一次統計として手数料率を集計したものは、調べた範囲では見当たらなかった。
これは数字が間違っているという意味ではない。実態としてその水準が多いのだろう。ただし、何社を対象に、どの業種で、どこまでの業務範囲を前提に集計した数字なのかが分からない以上、自社の見積もりが高いか安いかを、その数字だけで判定することはできない。料金形態そのものの比較はリスティング広告の運用代行は成果報酬型を選ぶべきかで扱っている。
金額が同じでも、やることの範囲が違えば比較にならない
見積もりが横並びに見えるのは、各社が同じ相場観を参照しているからである。差がつくのは金額ではなく、その金額に何が含まれているかのほうだ。
- 媒体の操作だけを指す場合。キーワードの追加・除外、入札調整、広告文の差し替え、審査落ちへの対応までで、広告の外側には手を出さない。
- 受け皿の改善まで含む場合。ランディングページの構成や問い合わせフォームの項目にまで踏み込む。制作費が別途かかることも多い。
- 受注までの検証を含む場合。問い合わせがその後どうなったかを顧客側から受け取り、キーワード単位まで戻して調整する。顧客側の協力が前提になる。
この3つは、必要な工数も、求められる技能も、顧客に出してもらう情報の量も違う。料率が同じなら安いほうを選ぶ、という比較が成立しないのはこのためである。
運用代行に渡せる仕事は、4つの層に分かれている
依頼範囲を具体的に決めるには、まず仕事を層に分けて見る必要がある。広告運用という一語でまとめられている作業は、性質の異なる4つの層に分かれている。
媒体の中の運用|渡しやすく、成果への距離も遠い
キーワードの選定と除外、入札の調整、広告文の作成、審査落ちへの対応。運用代行と聞いて多くの人が想像するのはこの層である。媒体の管理画面の中で完結するため外注しやすく、受け手側も標準化しやすい。
一方で、この層だけを渡した場合、改善できるのはクリックと問い合わせの数までになる。受注が増えるかどうかは、この層の外側で決まる部分が大きい。
媒体の外の受け皿|契約の書き方で有無が決まる
クリックした人が最初に見るページ、入力する問い合わせフォーム、送信した後に届くメール。この層は広告の管理画面の外にあるため、契約に書かれていなければ誰の仕事でもなくなる。
広告側で改善の余地が尽きたとき、次に効くのはたいていこの層である。だが「広告運用をお願いします」という頼み方では、ここは範囲に入っていないことが多い。受け皿の設計については問い合わせフォームが、受注に近い相談を弾いているで詳しく扱っている。
止める判断|誰が決めるかを先に決める
予算をどの媒体にどう配分するか、成果の出ない広告をいつ止めるか、媒体の入れ替えをするか。この層は作業ではなく判断であり、渡すかどうかではなく、どちらがどこまで決めてよいかを合意しておく性質のものだ。
曖昧なまま始めると、代理店は止める提案を出しにくくなる。報酬が広告費に連動していればなおさらである。止める提案が出てこないことは、乗り換えを検討する典型的な兆候でもある(広告代理店を変えるべき5つのサイン)。
成果の計測|ここを渡すと、検証の足場がなくなる
何を成果と数えるか、問い合わせがその後どうなったかをどう突き合わせるか。この層は自社の受注データと接続しなければ成立しないため、本来は外に出せない。
計測の定義を相手に委ねると、成果が出ているかどうかを自社で検証できなくなる。判定の基準を相手が持っている状態では、報告を受け入れる以外の選択肢がなくなる。
媒体は“どれが良いか”ではなく、市場の構成比を前提に選ぶ
どの媒体に出すかは、好みや流行で決めるものではない。まず市場がどう動いているかを前提として押さえ、そのうえで自社の商材がそこから外れる理由を確かめる順番になる。
運用型が88.7%を占め、検索連動型が最大の構成比である
CARTA HOLDINGS・電通・電通デジタル・セプテーニの4社が2026年3月5日に共同発表した「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」によれば、2025年のインターネット広告媒体費は3兆3,093億円(前年比111.8%)。このうち運用型広告が2兆9,352億円で、構成比は88.7%に達する。広告種別では、運用型の検索連動型広告が構成比38.7%でもっとも高い。
ソーシャル広告は1兆3,067億円(構成比39.5%)、ビデオ広告は1兆275億円(前年比121.8%)と伸びが大きい。なお検索連動型の38.7%とソーシャル広告の39.5%は分類の軸が異なり、内訳が重なりうる。大小を直接比べる数字ではない。
いずれにせよこれは市場全体の数字であり、検討期間の長いBtoB商材にそのまま当てはまるわけではない。構成比は媒体選びの前提であって、答えではない。
成果報酬型“広告”と、成果報酬型の“運用代行”は別物である
同じ調査で、取引手法別の成果報酬型広告は699億円、前年比96.1%と、運用型・予約型が伸びるなかで唯一の前年割れになっている。この数字を根拠に「成果報酬は縮小している」と読むのは誤りである。
ここでいう成果報酬型広告は、媒体費の支払い方の区分、つまりアフィリエイト広告などを指す。同じ資料はこれを「メディアや閲覧ユーザーに報酬が支払われる広告」と定義しており、報酬の受け手が媒体の側であることが明記されている。一方、運用代行の成果報酬型は、代理店に払う報酬の決め方であって、媒体費の区分ではない。同じ“成果報酬”という語が、媒体費の区分と報酬の決め方という別々のものを指している。見積もりを読むときは、どちらの話をしているのかを最初に確かめたほうがよい。
外注しても、自社に残さなければならないものが3つある
依頼範囲を広く取ること自体は悪くない。ただし、渡してはいけないものがある。この3つを手放すと、成果の検証も、代理店の乗り換えもできなくなる。
広告アカウントの管理者権限
Google広告のヘルプは、アカウントの管理者が1人だけの状態でその担当者が不在になると、タグへのアクセスを失う可能性があるとして、管理者を最低でももう1人追加することを推奨している。アクセス権は招待制で付与し、管理者側からいつでも削除できる仕組みになっている。
つまり、自社を管理者として残したまま代理店に権限を渡すことは、媒体の仕様として想定されている。代理店の名義でアカウントを新規開設してもらうと、契約終了時に運用履歴ごと引き継げない事態になりうる。
成果地点の定義
何をもって成果とするかは、運用方針そのものを決める。資料請求を成果とするのか、商談化を成果とするのか、受注を成果とするのかで、選ぶキーワードも、広告文の書き方も変わる。
この定義を代理店の提案任せにすると、相手が達成しやすい地点に落ち着きやすい。決め方は成果報酬の“成果地点”の決め方と成果地点は“受注に近い場所”に置くで扱っている。
顧客理解と訴求の原資
なぜ既存顧客が自社を選んだのか、競合と何が違うのか、どの業種のどんな状況で強いのか。この情報は社内にしかなく、外から調べても出てこない。
広告文もランディングページも、この材料がなければ一般論の寄せ集めになる。運用の技能で埋められる差ではないため、提供しないまま成果を期待するのは筋が通らない。
透明性の問題は、個別の代理店ではなく取引の構造にある
「運用の中身が見えない」という不満は、相手が不誠実だから起きるとは限らない。見えにくさは、デジタル広告の取引そのものに構造として含まれている。
公的な実態調査でも、透明性と契約条項が論点に挙がっている
公正取引委員会は令和3年2月に「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」を公表している。広告主と広告代理店に向けたアンケートでは、サプライチェーンの透明性に問題・課題があるとの回答が45%弱〜50%強、契約に問題・課題のある規定があるとの回答が35%〜50%弱だった。
ただしこの調査には限界がある。回答は105社(発送790社、回収率約13.3%)で、広告主と代理店の双方を含む。数値に幅があるのは複数の設問の結果をまとめているためで、運用代行の依頼範囲そのものを調べたものでもない。それでも、透明性が個別の相性ではなく構造上の論点として公的に確認されている事実は、依頼範囲を文面で決めておく理由になる。
広告費が“読める”ことと、報酬が“読める”ことは別である
広告費の上限は媒体の仕様で決まっている。Google広告では、ほとんどのキャンペーンで、1日の平均予算に対して1か月の費用が30.4倍(30.4は365÷12)、1日の費用が2倍を超えないと説明されている。つまり支出の側は、契約前から計算できる。
読めないのは報酬の側である。工数に連動するのか、広告費に連動するのか、成果に連動するのかで、同じ運用結果でも支払額が変わる。読めない部分がどちらにあるかを見分けると、交渉すべき場所がはっきりする。
依頼範囲は、3つの順番で決める
ここまでを実務の手順に落とす。順番を入れ替えると、決めたはずのことが後から崩れる。
- STEP1|成果地点を決める:どこまで到達したら成果と呼ぶかを、自社の受注プロセスに照らして決める。CVの数ではなく、受注または粗利に置けるかをまず確かめる。
- STEP2|渡す層を決める:4つの層のうち、どこを外に出し、どこを自社に残すかを決める。渡さない層は自社の仕事として残るため、担当者と工数も同時に決める。
- STEP3|報酬の連動先を決める:報酬が広告費・工数・成果のどれに連動するかを決める。連動先がずれると、代理店の合理的な行動と自社の利益がずれる。
この3つを口頭の合意ではなく契約書の文面に落とすと、複数社の見積もりが初めて同じ土俵に乗る。比較できる状態を作るのは、相見積もりを取る側の仕事である。
スリーハンドレッドの場合|報酬を粗利に連動させている
自社の条件も明らかにしておく。判断材料にしてもらうためであり、合わない場合もはっきり書く。
報酬は粗利に連動し、媒体費は顧客負担である
スリーハンドレッドの成果報酬は、粗利の20%としている。粗利は受注売上から直接原価を引いた額と定義し、最低保証は設けていない。広告の媒体費は顧客負担で、最低契約期間は6カ月である。
媒体費が顧客負担である以上、これは「完全成果報酬」ではない。費用が一切かからないという表現は実態と異なり、景品表示法が禁じる有利誤認にあたりうるため、自社では使わない。成果報酬であっても、顧客が負担する費用はゼロにはならない。
この形が向かない場合
粗利に連動させる方式は、どの会社にも向くわけではない。次の場合は噛み合わない。
- 粗利を開示できない場合。報酬の算定根拠が共有できないため、そもそも計算が成立しない。
- 検討期間が極端に長い商材の場合。受注までの期間が契約期間を大きく超えると、支援した効果が報酬に反映されない。
- まず認知を広げたい場合。受注から逆算する設計とは目的が異なるため、固定報酬で工数を買うほうが合理的である。
中途解約の条件や契約終了後のアカウントの扱いは、個別の契約で定めている。ここでは一律の条件として示さない。
まとめ|決めるべきは価格ではなく、範囲と連動先である
運用代行の手数料には一次統計がなく、相場を調べても依頼先は決まらない。決め手になるのは、渡す仕事の範囲と、報酬が何に連動するかの2点である。
仕事を4つの層に分け、アカウントの管理者権限・成果地点の定義・顧客理解の3つを自社に残し、成果地点から順に決めていく。範囲が決まって初めて、価格は比較できる情報になる。自社の広告がどの層で止まっているかを確かめたい場合は、無料診断で現状を整理するところから始められる。
よくある質問
Q. 手数料の相場が分からないまま、どう見積もりを比べればよいか
金額の前に、各社の提案に4つの層のどこまでが含まれているかを書き出して並べるとよい。含まれる層が違えば、金額の差は妥当な差である。範囲をそろえたうえで初めて、料率の比較に意味が出る。
Q. 広告アカウントは代理店に作ってもらってよいか
自社が管理者権限を持つ形であれば問題は小さい。Google広告のヘルプも管理者を複数置くことを推奨している。代理店名義で開設し自社に権限がない状態だと、契約終了時に運用履歴を引き継げない可能性がある。
Q. 成果報酬型の広告が前年割れしていると聞いたが、成果報酬の運用代行は縮小しているのか
別の話である。前年割れしているのは媒体費の取引手法としての成果報酬型広告(699億円、前年比96.1%)で、これはアフィリエイトなどを指す。代理店に払う報酬の決め方としての成果報酬型とは、対象がまったく異なる。
Q. 社内に広告の担当者がいない場合、4つの層を全部渡すべきか
渡せる層は渡してよいが、成果の計測だけは自社に残したほうがよい。問い合わせがその後どうなったかは社内の受注データにしかなく、ここを渡すと成果が出ているかを自社で確かめる手段がなくなる。月に一度、受注実績を共有する運用から始められる。
Q. 成果報酬なら、費用は本当にかからないのか
かかる。スリーハンドレッドの場合、広告の媒体費は顧客負担である。報酬が発生しない期間があるだけで、支出がゼロになるわけではない。「完全成果報酬」という表現を見たときは、媒体費と初期費用の扱いを必ず確認したほうがよい。
出典:CARTA HOLDINGS・電通・電通デジタル・セプテーニ「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2026年3月5日発表)/公正取引委員会「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書(概要)」(令和3年2月)/Google広告ヘルプ「1日の平均予算について」「Google 広告アカウントへのアクセス権を管理する」