広告の定例会で渡されるレポートは、悪い内容ではない。コンバージョン数は前月より増え、CPA(獲得単価)は下がっている。担当者は改善点を挙げ、次の施策も用意している。それでも、営業の手元にある受注の数字は動いていない。

この状態が数か月続くと、多くの経営者が「代理店を変えるべきか」を考え始める。だが、ここで最初に疑うべきは運用の腕前ではない。代理店の報酬が増える条件と、自社の利益が増える条件が、はじめからずれているという可能性である。腕の良い担当者が真面目に仕事をしていても、同じ結果になる。

スリーハンドレッドは、Web広告の運用代行を成果報酬型で提供している。立場上、乗り換えを勧める側に見えるであろうことを承知のうえで、この記事では「変えるべきサイン」と同時に「変えなくても直せるサイン」を並べて書く。判断の材料になるのは、どちらも示したときだけである。

この記事の要点

  • 代理店を変えるべきかは、運用の良し悪しではなく料金形態が生む利害のずれから判断する。腕の良い担当者でも、報酬の決まり方が違えば見る指標が変わる。
  • サインは5つ。CVと受注の乖離、成果定義の食い違い、広告アカウントの権限、レポートが受注まで戻らないこと、止める提案が出てこないこと。
  • 5つのうち契約と計測で直せるものと、体制でしか直せないものがある。前者なら乗り換えは不要であり、権限と計測を自社に戻さないまま変えても同じことが起きる。

「変えるべきか」の判断は、運用の腕ではなく利害のずれから始める

代理店の評価は、担当者の反応速度や提案の丁寧さで語られがちである。だが、それらは契約を続けたいかどうかの話であって、受注が増えるかどうかの話ではない。見るべきは腕前ではなく、どちらが得をする設計になっているかである。

報酬が増える条件のずれ 同じレポートを見ていても、増えてほしいものが一致していない 代理店の報酬が増える条件 広告費が増えること (手数料は広告費に比例) CV数が増えること (達成を示しやすい指標) 契約が続くこと (CPAの改善幅で更新) 自社の利益が増える条件 受注が増えること (商談になる相談が増える) 受注単価と粗利が上がること (安い案件に寄らない) 広告費と手数料を 受注の粗利で回収できること “成果”が指す先のずれ CVは増え、CPAは下がる 受注と粗利は動かない
図1|代理店の報酬が増える条件と、自社の利益が増える条件は一致していない。

代理店の報酬は広告費に連動し、自社の利益は受注の粗利で決まる

手数料モデルでは、代理店の報酬は広告費に比例して増える。つまり、広告費を増やす提案は代理店にとって合理的である。一方で自社の利益は、受注が増え、その粗利が広告費と手数料を上回ったときにしか増えない。この二つは、同じ方向を向いているとは限らない。

この構造は、担当者の人格とは無関係に働く。むしろ誠実な担当者ほど、与えられた指標(CV数とCPA)の達成に忠実になる。料金形態ごとの違いは、リスティング広告の運用代行は成果報酬型を選ぶべきかで、「読めるコスト」と「ずれる利害」の二軸に分けて整理している。

利害がずれていても、レポートの数字は良くなる

利害がずれた状態は、レポートの悪化として現れない。むしろ逆である。CV単価の安い検索語句に予算を寄せ、フォームの入力項目を減らし、資料請求をコンバージョンに数えれば、CV数は増えてCPAは下がる。数字が良くなること自体が、ずれが進んでいる証拠になりうる。

だからこそ、代理店の良否はレポートの中では判定できない。判定に必要なのは、レポートの外にある数字、すなわち商談化数と受注数、そして受注の粗利である。この乖離が起きる仕組みは、広告のCVは増えたのに、売上が増えないで詳しく扱っている。

サイン1|CVは増えているのに、商談と受注が増えていない

最初のサインは、もっとも素朴な乖離である。CVが前年の倍になっても、受注が横ばいなら、増えたのは受注の手前にある何かでしかない。増えたのはCVの数ではなく、CVの構成比であると考えたほうが、実態に合う。

“安く取れるCV”が構成比を変えている

運用の最適化は、目標として与えられた指標に向かって進む。CV数とCPAが目標なら、安く取れるCVの比率が上がる。具体的には、情報収集段階の資料請求、価格だけを知りたい問い合わせ、採用や営業目的の連絡が増える。

これらはコンバージョンとして正しく記録される。だが商談にはならない。結果として、分母(CV数)だけが増え、商談化率と受注率が下がる。現場は「問い合わせの質が落ちた」と感じるが、レポート上は改善が続いている。

確かめ方:CV数ではなく、CVの内訳と受注率を並べる

確かめるのに新しいツールは要らない。直近の数か月について、次の四つを横に並べるだけで足りる。

  • CV数。レポートに載っている数字をそのまま使う。
  • CVの内訳。資料請求/価格照会/具体的な相談/その他(採用・営業)に分ける。
  • 商談化数。初回の打ち合わせまで進んだ件数を数える。
  • 受注数と受注粗利。営業側の数字を、広告経由に限って拾う。

CV数だけが伸び、商談化数が横ばいなら、サイン1に該当する。なお、問い合わせの手前にある行動を指標にする設計そのものは有効であり、否定すべきではない。条件は問い合わせの“手前”に、見る指標がないで整理している。

サイン2|成果の定義が、契約書と現場で食い違っている

二つめは、言葉の問題に見えて、実際には計測の問題である。契約書に「成果」と書かれていても、その語が何を数えているかは、計測タグの設定で決まる。契約書の“成果”と計測タグが数えているものが違えば、双方が嘘をつかないまま話が合わなくなる。

“問い合わせ”が成果地点のままになっている

多くの契約では、成果地点がフォーム送信に置かれている。運用開始時にはそれが唯一の計測可能な地点であったという事情があり、不自然な設定ではない。問題は、事業側の関心が受注に移ったあとも、成果地点が更新されないことである。

成果地点が受注から遠いほど、最適化は受注から遠い行動に向かう。どこに置くべきかという議論は、成果地点は“受注に近い場所”に置くと、契約前に決める項目をまとめた成果報酬の“成果地点”の決め方に分けて書いている。

確かめ方:契約書の成果定義と、計測タグが数えているものを突き合わせる

確認の手順は二つしかない。第一に、契約書または発注書の成果定義を読み直し、何をもって成果とするかを文面のまま書き出す。第二に、広告アカウントのコンバージョンアクションを開き、どのイベントが「コンバージョン」に計上される設定になっているかを一覧にする。

この二つがずれていれば、それは代理店の不誠実ではなく、更新されていない取り決めである。多くの場合、契約を巻き直さずに計測設定の変更だけで解消できる。つまりサイン2は、乗り換えの理由にはなりにくい。

サイン3|広告アカウントの管理者が、代理店だけになっている

三つめは、運用の質とは別の次元にある。アカウントの所有と権限の話である。管理者権限がないなら、代理店を変える判断そのものが自社の手にない。

管理者でなければ、権限の付け替えもリンクの解除もできない

Google 広告のアクセスレベルは5種類ある。メール専用、お支払いとご請求、読み取り専用、標準、管理者である。このうち、アクセス権の付与・変更・招待の取り消しと、MCCアカウント(代理店が使う管理アカウント)のリンク要求の承認や解除ができるのは、管理者だけである。

つまり自社の権限が標準以下であれば、代理店との接続を自社の判断で切ることができない。乗り換えを決めたあとに、過去の運用データや学習の蓄積を引き継げないという事態も、ここから生じる。Google 広告のヘルプ自体が、管理者が1人だけの状態を避け、少なくとももう1人を追加することを勧めている。

確かめ方:自社に管理者権限があるか、アカウントの所有者が誰かを見る

広告アカウントの「管理者」メニューから「アクセスとセキュリティ」を開き、自社のアドレスがどのアクセスレベルで登録されているかを確かめる。登録自体がない、あるいは読み取り専用であれば、サイン3に該当する。

これは乗り換えの前に必ず直す項目である。権限を戻さないまま代理店だけを変えると、新しい代理店が一から作り直すことになり、過去の実績データを失う。該当した場合の手当ては、本記事の後半(切り分けの段階)で扱う。

サイン4|レポートが媒体の数字で終わり、受注まで戻っていない

四つめは、報告の範囲である。媒体の管理画面から出せる数字だけで定例が完結している場合、受注が広告の最適化に反映される経路が存在しない。受注を広告に戻せる期間には上限があり、報告が遅いこと自体が機会の損失になる。

受注を広告に戻すには、クリックから90日という期限がある

受注や契約のような、サイト上では発生しない成果を広告側に取り込む仕組みは、オフラインコンバージョンのインポートと呼ばれる。Google 広告のヘルプによれば、最終クリックから90日を超えて送信されたコンバージョンは取り込まれない。拡張コンバージョン(リード)の場合は63日である。

BtoBでは、問い合わせから受注まで数か月かかる商材が珍しくない。検討期間がこの期限を超える場合、受注のすべてを広告側に戻すことはできないと考えられる。だからこそ、どの時点の成果を代替指標として戻すかを、あらかじめ決めておく必要がある。

検索語句が出てこないのは、代理店のせいだけではない

「何の検索語句で広告が出ているか分からない」という不満は、ブラックボックス化の典型として語られる。ただし、ここは公平に見ておきたい。Google 広告の検索語句レポートは、クエリアクティビティが十分でない検索語句を、プライバシー基準のために除外する場合があると明記されている。

つまり、すべての検索語句が開示されるわけではない。代理店を責めるべきなのは、出せる範囲を出していないときだけである。逆に言えば、除外の仕組みを説明できる代理店は、少なくとも仕様を理解している。運用側の原因を広く切り分けたい場合は、リスティング広告の効果が出ない7つの原因が対応する。

サイン5|提案が「広告費を増やす」に偏り、止める提案が出てこない

五つめは、提案の内容の偏りである。予算の増額、媒体の追加、新しいキャンペーンの立ち上げ。提案そのものは正当でも、反対方向の提案が一度も出てこないなら、それは判断ではなく構造である。止める提案が出てこないのは担当者の怠慢ではなく、報酬の決まり方の帰結である。

減らす提案は、手数料モデルでは自分の報酬を削る提案になる

手数料が広告費に比例する契約では、「このキャンペーンは止めたほうがよい」という提案は、自社の売上を減らす提案と同義になる。これを平然と出せる代理店は信頼できるが、出せないことを不誠実と呼ぶのは酷でもある。仕組みがそう作られている。

この非対称は、代理店側の収益構造からも説明がつく。受託型のビジネスでは、稼働を埋めることが優先され、顧客の受注が増えたかどうかは次の順位になりやすい。構造の全体像は、問い合わせは来るのに受注できないで扱っている。

確かめ方:直近3回の提案で「減らす・止める」が何件あったかを数える

定例の資料をさかのぼり、直近3回分の提案を一覧にする。そのうえで、増やす提案と減らす提案の件数を数える。減らす提案が0件であれば、サイン5に該当する。件数の多寡ではなく、0か1以上かを見る。

該当した場合、担当者を交代させても結果は変わらない。変わるのは料金形態を変えたときだけである。ここが、5つのサインのなかで唯一、乗り換えまたは契約形態の変更以外に解がない項目である。

5つのサインは、変えるべきかではなく、直せるかの切り分けに使う

ここまでの5つを並べると、性質が二つに分かれていることが分かる。サインの数は代理店を変える理由ではなく、変えずに直せるかどうかの切り分けである。

乗り換えの前に踏む段階 順番が重要。数えて、切り分けて、自社に戻してから選び直す 1 数える CVではなく、商談と 受注の件数を並べる 増えたCVの内訳が 変わっていないか 2 切り分ける 契約と計測で直るか 体制の問題かを分ける 直せるなら、乗り換え は必要ない 3 戻す 管理者権限と計測を 自社側に戻す 戻さないまま変えても 同じことが起きる この順に踏んでから、代理店を選び直す
図2|乗り換えの前に、数えて、切り分けて、権限と計測を自社に戻す。

契約と計測で直せるサインと、体制でしか直せないサイン

五つを性質で分けると、次のようになる。左の列が該当の有無、右の列が打ち手である。

サイン性質打ち手
1|CVと受注の乖離指標の設定の問題目標指標を商談化・受注に変更する。代理店を変えずに直せる
2|成果定義の食い違い取り決めと計測の不一致成果定義を書き直し、計測を合わせる。代理店を変えずに直せる
3|権限が代理店だけ所有の問題管理者権限を自社に戻す。乗り換えの前提条件であり、先に直す
4|受注まで戻らない報告連携の設計の問題受注データの受け渡しを定例に組み込む。体制次第で直せる
5|減らす提案が出ない料金形態の問題料金形態を変える。担当者の交代では直らない

該当がサイン1・2・4に限られるなら、まず現在の代理店に是正を依頼するのが順序として正しい。サイン5に該当するなら、是正の依頼は相手に自分の報酬を削らせる依頼になるため、通りにくい。

乗り換えの前に、引き継げるものを自社側に戻す

乗り換えを決めた場合でも、順序を守らないと損をする。先に戻すべきものは、次の三つである。

  1. 広告アカウントの管理者権限:自社名義のアカウントに管理者として登録されている状態にする。代理店名義で作られている場合は、移管の可否と手順を文書で確認する。
  2. 計測の設定:コンバージョンアクションの定義、タグの設置場所、オフラインコンバージョンの連携方法を書き出す。設定が代理店の手元にしかない状態を解消する。
  3. 過去の実績データ:検索語句、キャンペーン単位の費用と成果、除外キーワードの一覧を出力しておく。学習の蓄積そのものは移せないが、判断の材料は残る。

これらは契約終了後に依頼すると応じてもらえないことがある。契約期間中、関係が悪化する前に済ませておく。

乗り換えても同じ構造なら、同じことが起きる

最後に、もっとも見落とされやすい点を書く。乗り換え先の料金形態が同じ手数料モデルであれば、サイン5は再発する。相手の質が上がっても、報酬が増える条件は変わらないからである。

したがって、選び直すときに比べるべきは提案書の出来や実績件数ではない。報酬が何に連動するか、成果が何で定義されるか、その二点である。

選び直すときに見るのは、料金形態と成果の定義である

では、何を基準に選び直すのか。提案書の厚さでも、実績社数でもない。料金形態を選び直すとは、誰が何で得をするかを選び直すことである。

料金形態は「読めるコスト」と「ずれる利害」で比べる

料金形態の選択は、いまや例外的な論点ではない。電通ほか4社の調査によれば、2025年のインターネット広告媒体費3兆3,093億円(前年比111.8%)のうち、運用型広告は2兆9,352億円で構成比88.7%を占める。検索連動型広告はその中で最大の38.7%である。

日々の調整を前提とする広告が主流であるということは、その調整を誰に委ね、どう報いるかという設計が、成果を左右するということでもある。定額型・手数料型・成果報酬型の三つを、コストの読みやすさと利害のずれで比較した整理は、料金形態3種の比較にある。

成果報酬型にも弱点があり、それを先に聞けるかどうかで判断する

スリーハンドレッドは成果報酬型で運用代行を提供しているが、この形態が万能だとは考えていない。成果の定義が甘ければ質の低い成果が積み上がり、成果が大きく出た月は固定報酬より割高になる。検討期間が長い商材では、成果の計測そのものが難しい。

重要なのは、これらの弱点を相手が先に説明するかどうかである。成果の定義、計測の方法、実費の扱い、契約終了後のアカウントの扱い。この四つを聞いて、明確な答えが返ってくるかを見る。仕組みの全体像は成果報酬型Webマーケティングとはに、提供範囲はサービス紹介にまとめている。

自社がどのサインに該当しているかを一度整理したい場合は、無料診断で、現在のレポートと受注の数字を突き合わせるところから対応している。

まとめ|判断の基準は、相手の優劣ではなく成果の定義のそろい方である

代理店のレポートが良いのに受注が増えないとき、原因は運用の腕前ではなく、報酬が増える条件と自社の利益が増える条件のずれにある。5つのサインは、そのずれがどこに出ているかを特定するための目印である。

そして5つのうち、契約と計測で直せるものは乗り換えの理由にならず、権限は乗り換えの前に戻すべきもの、料金形態は変えなければ直らないものである。変えるべきかは、相手の優劣ではなく、成果の定義が自社の利益とそろっているかで決まる。

よくある質問

Q. 5つのサインのうち、いくつ当てはまったら変えるべきか

数で決める基準は置いていない。性質で判断する。サイン1・2・4だけであれば、是正を依頼すれば直る範囲である。サイン5に該当する場合は、料金形態を変えない限り再発する。サイン3は該当した時点で、乗り換えの可否を問わず先に直す項目である。

Q. 契約期間の途中でも代理店を変えられるのか

契約書の解約条項によるため、一般論としては答えられない。多くの業務委託契約には解約の予告期間が定められており、その期間と、期間内に支払う手数料の扱いを先に確認する必要がある。確認すべきなのは、解約条項、広告アカウントの帰属、計測設定の引き渡し、の三点である。

Q. 担当者を変えてもらうだけで解決するか

サイン1・2・4であれば、担当者の変更でも改善することがある。これらは指標の設定や取り決めの問題であり、新しい担当者が設定を見直せば直る。一方でサイン5は料金形態に由来するため、担当者が変わっても、減らす提案が自社の売上を減らす構造は変わらない。

Q. 成果報酬型に変えれば、こうした問題は起きないのか

起きないとは言えない。成果報酬型では、成果の定義が受注から遠い場所に置かれていると、「安く取れる成果」が積み上がる同じ問題が再現する。料金形態を変えること自体が解ではなく、成果を受注や粗利の近くに定義できるかどうかが分かれ目である。

Q. 広告アカウントが代理店名義の場合、移管できるのか

媒体の規定と契約内容によるため、個別に確認する必要がある。Google 広告では、アクセス権の付与や管理アカウントのリンク解除ができるのは管理者だけであるため、まず自社が管理者として登録されているかを確認する。登録がない場合は、その追加を依頼することが最初の手順になる。

出典:電通・CARTA HOLDINGS・電通デジタル・セプテーニ「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2026年3月5日発表)/Google 広告ヘルプ「Guidelines for importing offline conversions」/Google 広告ヘルプ「Google 広告アカウントへのアクセス権を管理する」/Google 広告ヘルプ「検索語句レポート」