広告のレポートには、こう書かれている。コンバージョン数は前月より増え、CPA(顧客獲得単価)は下がった。改善は順調である、と。ところが営業の手元では、商談の数も受注の数も動いていない。月末の会議に、この二つの報告が並ぶ。
よくある解釈は「代理店の報告が都合のよい数字を選んでいる」である。だが、多くの場合そうではない。広告が数えている成果と、事業が数えている成果が、別の単位になっているだけである。どちらの報告も、自分の単位のなかでは正しい。
本記事では、CPAの最適化が「受注に近いCV」ではなく「安く取れるCV」を集めてしまう仕組みを分解し、成果の単位を受注・粗利へ付け替える手順を、Google 広告の仕様に沿って示す。料金形態そのものの比較はリスティング広告の運用代行は成果報酬型を選ぶべきかで扱っているため、ここでは指標と計測に絞る。
この記事の要点
- CVが増えて売上が増えないのは報告の誤りではなく、広告側と事業側で成果の単位が二重になっている状態である。
- 自動入札は計測された値にしか反応しないため、すべてのCVに同じ値が付いていると、受注確度ではなく「取りやすさ」の順に配信が寄る。
- 直すには、成果地点を受注に置き、受注結果を広告へ戻し、粗利を値として入れ、最後に入札を移す。計測が先、入札が後である。
「CVは増えたのに売上が増えない」は、2つの正しい報告が噛み合っていない状態である
同じ月の同じ広告を見て、片方は改善、片方は停滞と報告する。同じ期間を見ているのに結論が逆になるのは、両者が別の母集団を数えているからである。
広告のレポートと営業の実感は、どちらも正しい
運用担当者はアカウントの管理画面を見ている。そこに表示されるのは、計測期間の内側で発生したコンバージョンの件数と、その1件あたりの費用である。営業担当者が見ているのは、商談になった案件と、見積もりを出して受注できた案件の数である。
「CVは前月比で増え、CPAは下がりました。キーワードと入札の調整が効いています」
「問い合わせは来ているが、話を聞くと予算も時期も決まっていない。商談にならない件数だけが増えた」
この食い違いは、担当者の能力や誠実さの問題ではない。二人が参照している指標が、そもそも別の対象を数える道具である。
2つの報告は、違う母集団を数えている
広告側の母集団は「フォームを送信した人」である。事業側の母集団は「発注を決めた会社」である。前者は後者を含むが、両者の比率は固定されていない。比率が変われば、件数が増えても受注は減る。
この比率が崩れる理由を、問い合わせの質の側から整理したのが問い合わせが受注につながらない3つの原因である。本記事では、広告の入札そのものがこの比率を押し下げる仕組みを扱う。
CPAの最適化が集めるのは、受注に近いCVではなく“取りやすいCV”である
自動入札は、与えられた指標を最大化するように動く。入札が集めてくるのは受注に近いCVではなく、同じ値で測ったときに最も安く取れるCVである。次の図は、その断絶を示したものである。
入札は、計測された値にしか反応しない
自動入札は、事業の損益を見ていない。見ているのは、アカウントに記録されたコンバージョンと、そこに紐づく値である。受注したかどうか、粗利がいくらだったかというデータは、意図して戻さない限りアカウントに存在しない。
存在しないデータは、最適化の対象にならない。ここに悪意はなく、仕様どおりの挙動である。
「取りやすさ」の差が、そのまま配信の偏りになる
同じ値のCVが並んでいるとき、機械は安く取れる側を選ぶ。BtoBでは、取りやすいCVと受注しやすいCVがしばしば逆を向く。
- 情報収集の段階にいる人。比較検討の入口にいるため反応はよいが、予算も決裁の時期も決まっていない。
- 対象外の規模・地域からの問い合わせ。フォーム送信の障壁が低く件数は伸びるが、商談化しない。
- 既存顧客や取引先による送信。CVとして計上されるが、新規の受注ではない。
この偏りは、キーワードの選び方だけでは止められない。キーワード側の打ち手は受注につながるキーワードの選び方に整理している。
仮設例|CPAが半分になり、粗利が減る
算数の向きだけを見せるため、仮の数値で比べる。以下は説明用の仮設例であり、実在の企業や実績ではない。料率も件数も、比較のために置いた数である。
| 観点 | 最適化の前 | 最適化の後 |
|---|---|---|
| 月の広告費 | 100万円 | 100万円 |
| CV数 | 50件 | 100件 |
| CPA | 20,000円 | 10,000円 |
| 受注率 | 10% | 3% |
| 1件あたりの粗利 | 300,000円 | 300,000円 |
| 粗利の合計 | 1,500,000円 | 900,000円 |
CVは2倍になり、CPAは半分になった。広告のレポートとしては、文句のつけようがない改善である。それでも粗利は1,500,000円から900,000円へ減っている。CPAが下がったこと自体が、受注率の低いCVが混ざった証拠になる場合があるという点が、この表の読みどころである。
すべてのCVに同じ値を付けている限り、入札は質を区別できない
では、なぜ機械は質の差を無視するのか。すべてのCVに同じ値が付いている限り、入札は質を区別する手がかりを一つも持たない。
値を設定しなければ、デフォルト値が全件に適用される
Google 広告のヘルプは、コンバージョン値について、分析情報やスマート自動入札に使うには事前に測定をセットアップする必要があると述べている。そして、動的な値をトラッキングコードに追加しない場合、入力したデフォルト値がすべてのコンバージョンに使用されるとされている。
つまり、何もしなければ全件が同じ重みになる。受注した1件と、対象外の地域からの1件が、入札にとって等価である。運用型広告は2025年のインターネット広告媒体費3兆3,093億円のうち88.7%を占めており、入札に何を渡すかが成果を左右する領域が市場の大半になっている。
メインとサブの振り分けは、レポートを整えるだけである
コンバージョンアクションには、メインとサブの区分がある。メインアクションはレポートの[コンバージョン]列に表示され、入札に使用される標準の目標に含まれる場合は入札に使われる。サブアクションは[すべてのコンバージョン]列に表示され、標準の目標に含まれていても入札には使用されない。
この区分は、質の低いCVを入札から外すのに役立つ。ただし、残したメインアクションの値が全件同じであれば、メインの内側での優劣は依然として判定できない。なお、カスタム目標に含まれるアクションは、メインとサブのいずれに設定されていてもレポートと入札の両方に使用される点に注意が必要である。
受注のデータが広告に戻っていないと、指標は件数のまま固定される
値を入れるには、受注の結果を広告側へ戻す必要がある。受注のデータが広告に戻っていなければ、指標は件数のまま固定される。そして、戻せる期間には技術的な上限がある。
受注を戻せる期間には上限がある
Google 広告のヘルプによれば、最後のクリックから90日以上経ってアップロードされたオフラインコンバージョンのデータは、インポートされない。リードの拡張コンバージョンでは、この上限は63日である。
BtoBでは、問い合わせから受注までに3か月以上かかる商材が珍しくない。上限を超えた受注は、どれだけ正確に記録していても広告には戻らない。戻らなかった受注は、入札にとって「成果が出なかったクリック」と同じ扱いになる。
検討期間が長い商材では、見ている数字がまだ完成していない
クリックスルーコンバージョンの計測期間は、検索キャンペーンとディスプレイキャンペーンでデフォルト30日であり、1〜30日、60日、または90日の範囲で指定できる。期間を延ばせば拾える受注は増えるが、そのぶん数字の確定が遅れる。
ヘルプは、コンバージョンまでの日数を確認する際、レポートの期間が30日以上前に終了していることを確かめるよう求めており、クリックから90日後に初めて確認できる場合もあると述べている。管理画面のセグメントでは、コンバージョン列が最大19行に分割され、どのくらいの遅れで成果が立っているかを読める。先月の数字で判断すること自体が、早すぎる可能性がある。
広告の成果を「受注・粗利」に付け替える4つの手順
順番がある。計測を先に変え、入札はあとから変える。逆にすると入札の学習が壊れる。
- 成果地点を「受注」に置き直す:広告の成果として数えるものを、問い合わせの件数から「受注したかどうか」に変える。どこを成果地点にするかの判断は成果報酬の“成果地点”の決め方と成果地点は、“測れる場所”ではなく“受注に近い場所”に置くに整理している。
- 受注の結果を広告側へ戻す:受注・失注をオフラインコンバージョンとして取り込む。クリックから90日を過ぎた分は入らないため、商談の記録と広告のクリックIDを早い段階で紐づけておく。インポートしたデータが画面に表示されるまでには3時間程度かかる。
- 案件ごとの粗利を値として入れる:全件に同じ値を付けるのをやめ、案件ごとに金額の違う粗利の額をコンバージョン値にする。ヘルプは値の例として販売収益、利益率、リードスコアを挙げており、価値がゼロのコンバージョンは使わず、事業にとって価値がないならデータセットから除外するよう述べている。
- 値に基づく入札へ切り替える:ここまでが整ってから入札戦略を移す。移行前に、少なくとも4週間またはコンバージョンサイクル3回分のデータを定期的にアップロードしておく。アップロードはできれば1日1回行う。
付け替えが効くかどうかは、件数と値のばらつきで決まる
この手順は、どの会社でもそのまま機能するわけではない。付け替えが効くかどうかは、コンバージョンの件数と、値のばらつきの有無で決まる。
値に基づく入札には、件数と値の下限がある
Google 広告のヘルプは、価値に基づく入札戦略のおすすめの方法として、ゼロ以外の固有の値を2つ以上、一貫してトラッキングすることを挙げている。また、アカウント単位で1か月あたり15件以上のコンバージョンの獲得を目指すとしている。
値が全件同じであれば、形式上は値ベースでも、実質は件数の最適化に戻る。立ち上げ期間として少なくとも2週間またはコンバージョンサイクル3回分を見てから成果を判断するよう示されており、切り替えた翌週の数字で評価しない運用が前提になる。
件数が足りないときは、受注の手前に成果地点を置く
受注件数が月15件に届かない商材では、受注をそのまま成果地点にすると学習に必要なデータが集まらない。その場合は、受注と相関が確認できる手前の行動を成果地点にする。
手前の指標を選ぶ条件は問い合わせの“手前”に、見る指標がないに3つ挙げている。重要なのは、測りやすいからではなく、受注との相関が確かめられたから選ぶという順序である。
レポートと契約の側を同時に変えなければ、指標は元に戻る
計測を直しても、評価の仕組みが件数のままなら、現場は件数を追い続ける。レポートと契約の側を変えなければ、指標は数か月で元に戻る。
月次レポートの先頭行を入れ替える
レポートの一行目にある指標が、その月の行動を決める。先頭をCVとCPAにしている限り、会議の論点はそこに戻る。
| 項目 | 件数を追うレポート | 受注を追うレポート |
|---|---|---|
| 先頭の指標 | CV数とCPA | 受注件数と粗利 |
| CVの扱い | 成果そのもの | 受注に至る途中の指標 |
| 評価の時点 | 当月で確定 | 計測期間の経過後に確定 |
| 改善の打ち手 | 入札とキーワード | 成果地点と訴求、受け皿 |
受け皿の側で何が起きているかは、問い合わせフォームが、受注に近い相談を弾いているで扱っている。
料金形態が件数に連動していると、指標だけ変えても利害が戻る
広告費に対する手数料で報酬が決まる契約では、広告費が増えるほど受け取る額が増える。この構造のもとでは、受注が増えなくても広告費とCV数が増えれば成立してしまう。構造の詳細は問い合わせは来るのに、なぜ受注できないのかに書いた。
指標を受注・粗利に付け替えるなら、報酬の基準も同じ方向に揃えておく必要がある。揃っていなければ、レポートの様式が変わっただけで、半年後には件数の話に戻る。
スリーハンドレッドは、粗利を成果地点に置いて逆算する
当社は、成果を粗利で定義し、そこから逆算して広告・LP・訴求の設計を行う方針を取っている。成果地点を粗利に置くと、広告費を増やすほど報酬が増えるという利害のねじれ自体が消えると考えられる。
無料診断では60分で、現在のレポートの先頭にある指標、受注データが広告へ戻っているか、コンバージョン値が全件同じになっていないかを確認する。契約条件の具体については成果報酬型Webマーケティングの仕組みとデメリットを参照いただきたい。
件数の最適化は、受注の最適化ではない
CVが増えて売上が増えないとき、疑うべきは報告ではなく、成果を数える単位である。入札は与えられた値を忠実に最大化する。全件に同じ値が付いていれば、安く取れるCVが選ばれる。
直す順番は決まっている。成果地点を受注に置き、受注結果を広告へ戻し、粗利を値として入れ、最後に入札を移す。件数の最適化は、受注の最適化ではない。
よくある質問
Q. CPAが下がったという報告は、悪い報告なのか
そうとは限らない。受注率が変わらずにCPAだけ下がっていれば、純粋な改善である。問題になるのは、CPAの低下と受注率の低下が同時に起きている場合である。両方を並べて見れば区別できる。
Q. 受注までに半年かかる商材では、この方法は使えないのか
受注そのものを成果地点にするのは難しい。オフラインコンバージョンのインポートは最後のクリックから90日、リードの拡張コンバージョンは63日が上限である。その場合は、受注と相関が確認できる手前の行動を成果地点に置き、受注は別の表で追う形にする。
Q. コンバージョン値に入れるのは、売上と粗利のどちらがよいか
一般には、案件ごとの原価の差が大きいほど粗利が適している。売上を基準にすると、原価の高い案件に配信が寄る可能性がある。Google 広告のヘルプは値の例として販売収益、利益率、リードスコアを挙げており、どれを使うかは事業側の優先順位で決める設計事項である。
Q. 代理店に受注データの連携を頼んでも進まない場合は
連携には発注側のCRMや商談記録の整備が必要になるため、代理店だけでは完結しない作業である。どこまでを誰が持つかを決めずに依頼すると止まりやすい。範囲を分担表にして、クリックIDの保持から受注フラグの入力までを誰が行うかを先に決めるとよい。
Q. 入札戦略を変えたら成果が落ちた。戻すべきか
判断が早い可能性がある。ヘルプは立ち上げ期間として少なくとも2週間またはコンバージョンサイクル3回分を見るよう示している。加えて、値のばらつきが無い状態で切り替えていないか、ゼロ以外の固有の値が2つ以上入っているかを先に確認したい。
出典:Google 広告 ヘルプ「計測期間について」/「オフライン コンバージョンをインポートするためのガイドライン」/「メインとサブのコンバージョン アクションについて」/「コンバージョン値について」/「価値に基づく入札戦略のおすすめの方法」/「ユーザーがコンバージョンに至るまでにかかった時間を確認する」/電通「2025年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2026年3月5日)