サービス内容も、実績も、想いも書いてある。それでもBtoBサービス業のサイトからは、問い合わせが来ない。来たとしても「料金だけ教えてください」で終わる。コンサルティング、人材、システム導入支援、制作受託——成果物が発注前に存在しない事業では、この停滞がほぼ例外なく起きる。
原因は、説明が足りないことではない。発注側は説明を読みたいのではなく、自社の案件に当てはめて確かめたいのである。ところが無形商材のサイトには、確かめるための材料が置かれていない。無形商材のサイトで不足しているのは説明の量ではなく、発注側が自分で確かめられる材料である。
本記事では、無形商材の発注検討で発注側が何を代わりの材料にしているのかを整理し、多くのサイトに共通する「4つの空白」と、その埋め方を4つのステップで示す。製造業向けの導線設計で扱った「照合できる状態」を、仕様書のない事業に置き換える回である。
この記事の要点
- 国内調査では、営業面談の前に発注先が「ほぼ決まっている」または「候補に絞り込まれている」割合が85%に達する。サイトは商談の入口ではなく、候補選定そのものの場になっている。
- 無形商材は成果物を事前に確かめられないため、発注側は工程・担当者・判断基準・終わり方という4つの代替材料で判断している。この4つが書かれていない状態を、本記事では「4つの空白」と呼ぶ。
- 空白を埋める作業は、ページを増やすことではない。棚卸し・言語化・配置・検証の4ステップで、社内にすでにある判断の記録を外に出す作業である。
発注側は、見えない中身を「4つの代替材料」で判断している
無形商材の発注検討では、発注側は買うものを事前に見られない。それでも意思決定は行われる。見られないものを判断するために、発注側は必ず何かを代わりの材料にしている。その材料が何かを特定しないまま情報を足しても、サイトは厚くなるだけで判断には使われない。
有形商材との違いは、「照合する物差し」の有無にある
製造業の発注検討であれば、材質・寸法・公差・ロットという共通の物差しがある。発注側はその物差しで候補を自分で絞り、図面と現物で品質を確かめられる。物差しが発注側と受注側で共通しているため、情報を並べれば照合が成立する。
無形商材にはこの物差しがない。成果物は発注の時点でまだ存在せず、品質は担当者と進め方に依存する。さらに「伴走支援」「戦略立案からご一緒します」「最適化」といった語を各社が同じように使うため、言葉の上では差がつかない。物差しがないところに言葉だけを増やせば、発注側は読むのをやめる。
代わりに使われるのは、工程・担当者・判断基準・終わり方の4つである
成果物が見えないとき、発注側は「成果物を生み出す過程」を見にいく。過程が信頼できるなら結果も信頼できる、という推論である。具体的には、次の4つが代替材料として機能する。
- 工程。着手から完了まで、何がどの順で行われるのか。自社は何を用意し、いつ何を受け取るのか。
- 担当者。実際に案件に入るのは誰か。どんな経験を持ち、何人の体制で、どの範囲まで関わるのか。
- 判断基準。途中の分岐で、何を根拠にどう決めるのか。迷ったときに何を優先するのか。
- 終わり方。どこまでが範囲で、どこからが範囲外か。いつ終わり、費用はどう決まるのか。
この4つは、発注側が口に出して要求するとは限らない。要求されないまま不足していると、問い合わせは起きずに離脱する。書かれていない状態を本記事では「空白」と呼び、以下で1つずつ扱う。
候補選定は、営業と会う前にほぼ終わっている
国内の購買担当者を対象とした調査では、営業面談の前に発注先が「ほぼ決まっている」が29%、「いくつかの候補に絞り込まれている」が56%で、合計85%に達する。購買の情報源として「購買先企業のWebサイト」を挙げた割合は38.5%、「検索エンジン」は32.2%であった。海外調査でも、営業担当者を介さない購買体験を好むと答えたBtoB購買者は67%である。
つまりサイトは、商談を取るための入口ではなく、候補選定が実際に行われている場である。問い合わせが来ているのに受注に至らない場合も、多くはこの段階で「確かめられないまま」候補に残った結果として説明がつく。
空白1|工程が書かれていないため、“何が起きるか”を想像できない
無形商材のサイトで最も多い空白が、工程である。「課題整理から実行まで一気通貫で支援します」という一文は、何をするかを説明しているようで、実際には何も特定していない。工程を出さない限り、“伴走します”は、何を買うのかを説明していないのと同じである。
“支援”という語は、作業量も関与度も特定しない
発注側が知りたいのは、契約した翌週に何が起きるのかである。キックオフは何時間か、誰が出るのか、その場に何を持っていけばよいのか。初月に提出されるものは何か。自社の担当者は月に何時間とられるのか。これらは決まっていないのではなく、たいていは決まっているのに書かれていない。
書かれない理由は、案件ごとに違うからである。だが違うのは分量と深さであって、順序ではない。順序は繰り返し同じものを使っているはずで、それは公開できる。
工程は「やること・提出物・発注側の作業」の3点をそろえて書く
工程を書き出すときは、各段階について3つの要素をそろえる。自社がやること、そこで出てくる提出物、そして発注側にお願いする作業である。3点目が抜けている工程表は多いが、発注側にとっては最も重要な情報である。自社の負担が読めなければ、社内で予定を押さえられない。
期間も同じで、「約3か月」ではなく「初月は現状整理、2か月目に設計、3か月目から実行」と段階で示す。幅でよいから出す方が、出さないより判断に使える。
空白2|担当者が書かれていないため、“誰に任せるか”を決められない
無形商材の品質は、最終的に案件に入る人に依存する。発注側もそれを知っているため、会社概要だけを読んで任せる判断はしない。無形商材で買われているのは会社ではなく、案件に入る人とその進め方である。
「経験豊富なコンサルタントが担当します」は、誰も担当していないのと同じである
担当者を出さない会社には理由がある。退職リスク、属人化への懸念、営業と実務の担当が分かれている事情。どれも実在の理由だが、発注側から見れば「会社に隠す事情がある」か「誰が来るか決まっていない」かのどちらかに見える。
顔写真と氏名を必ず出す必要はない。出すべきは、その人物がどの業界の、どんな規模の、どんな局面の案件を、何件扱ってきたかである。経歴の年数ではなく、扱ってきた案件の輪郭が、発注側の自社案件と重なるかどうかを判断させる。
体制は、人数ではなく「関与の度合い」で書く
「3名体制」とだけ書かれていても、3名が等しく関わるのか、1名が実務で2名は後方支援なのかは分からない。発注側が知りたいのは、定例に誰が出るか、資料を作るのは誰か、判断に迷ったとき誰に聞けるのかである。関与の度合いを書けば、少人数であることはむしろ強みとして伝わる。
担当者が案件ごとに変わる事業であれば、「どう決めるか」を書けばよい。どの条件のときに誰をあてるのか、その割り当てのルールが書かれていれば、名前がなくても発注側は確かめたことになる。
空白3|判断基準が書かれていないため、“どこも同じ”に見える
無形商材のサイトで差が出るのは、実績の数でも受賞歴でもなく、判断の基準である。ところが多くのサイトは、ここを最も慎重に伏せる。“御社に合わせて”と書くほど、判断の根拠が消えて各社が同じに見える。
「御社に合わせて最適なご提案を」は、差ではなく空白を生む
柔軟に対応する姿勢を示す意図の文だが、発注側には「何も決めていない」と読まれる。他社も同じ文を書いているため、比較の材料にならない。材料がないまま比較が続けば、残るのは価格と知名度だけである。
本来、案件ごとに対応が変わるとしても、変わり方には規則がある。予算が限られているときに何を先にやるのか、短期の数字と中期の仕組みが対立したときにどちらを取るのか。その規則こそが、その会社の考え方であり、自社の強みの実体である。
判断基準は、過去案件の「分岐」から取り出せる
判断基準は理念から作るものではなく、過去の案件から取り出すものである。直近で意見が割れた案件を3件思い出し、それぞれで「何を根拠に、どちらを選んだか」を書き出す。同じ根拠が繰り返し出てくるなら、それが自社の基準である。
基準を書くと、合わない相手が減る。それは損失ではない。確かめた上で問い合わせてくる相手が増えるため、商談の中身が変わる。海外調査では、意思決定への確信が高い購買者は、質の高い取引を報告する可能性が2倍であったと報告されている。
空白4|終わり方が書かれていないため、社内の稟議に持ち込めない
問い合わせの手前で最後に効くのが、範囲と終わり方である。発注側の担当者は、自分が納得しただけでは発注できない。上司と、場合によっては複数の部門を通す必要がある。範囲と終わり方が書かれていないサイトは、社内を説得する場面で使えない。
BtoBの意思決定は、一人では行われない
国内調査では、購買関与者数は低価格帯(300万円未満)で平均5.6人、中価格帯で14.4人、高価格帯で18.3人である。高価格帯では、検討期間が半年以上に及ぶ割合が54%に達する。海外調査でも、BtoBの購買グループは5〜16人、最大4つの部門機能にまたがるとされ、意思決定プロセス中に不健全な対立を示す購買チームが74%あると報告されている。
同じ調査では、購買グループ全体に関連する情報は合意に+20%の影響を与える一方、個人単位に最適化された情報は−59%の影響を与えたという。担当者一人に響く言葉を磨くより、グループで共有できる事実を置く方が、意思決定は前に進む。問い合わせが受注につながらない原因の多くも、この社内合意の段階に集まる。
費用は金額ではなく「決まり方」を出す
金額を出せない事情は多い。それでも、費用がどう決まるのかは書ける。何で変動するのか(期間か、対象範囲か、関与人数か)、どこからが追加費用なのか、最小の構成ではどこまでが含まれるのか。決まり方が分かれば、発注側は自社の条件を当てはめて概算を作り、社内に持ち込める。
あわせて、範囲外を明示する。やらないこと、他社と組む必要があること、自社側で用意してもらう必要があるもの。範囲外が書かれた瞬間に、書かれている範囲の信頼度が上がる。
4つの空白を埋める、導線設計の4ステップ
4つの空白は、新しいページを作って埋めるものではない。埋める材料はすでに社内にあり、取り出して並べ替える作業になる。導線設計とは、社内にある判断の記録を、発注側が使える形にして外に出す作業である。
STEP1|工程の棚卸し:実際にやっていることを時系列で書き出す
提案書やサービス紹介資料からではなく、直近に完了した案件の記録から書き出す。キックオフからクロージングまで、実際に行った作業を時系列に並べ、「課題整理」のような曖昧な工程名は、その中で何をしたかまで分解する。各段階に、やること・提出物・発注側の作業の3点を付ける。
STEP2|判断基準の言語化:分岐の場面と根拠を社内の言葉で拾う
棚卸しした工程の中から、判断が分かれた場面を抜き出す。そこで何を根拠に決めたのかを、提案書の表現ではなく、実際に社内で交わされた言葉で書き取る。きれいな理念に整える前の言葉の方が、発注側には具体的に届く。
STEP3|材料の配置:4つの空白を、どのページのどこに置くか決める
工程はサービスページ、担当者は会社・チームのページ、判断基準は事例、終わり方は料金ページ——というように、材料ごとに置き場を決める。1ページに全部を詰めない。受注からの距離が近いキーワードで入ってきた人が、最初に着地するページに、最も重い材料を置く。
STEP4|手前の行動で検証:問い合わせ数の前に、到達と読了を見る
配置を変えた効果は、問い合わせ数では測りにくい。件数が少なく、外的要因の影響も受けるためである。先に見るのは、事例ページと料金ページへの到達率、そのページでの読了の深さ、そして問い合わせフォームに書かれる内容の具体性である。これらが動いてから、件数が動く。
事例で見る|“伴走支援します”を、確かめられる材料に変える
以下は、記事の説明のための仮設例であり、実在の企業や実績ではない。成果の数値は記載しない。
事例|説明を足しても問い合わせが増えなかった、業務改善コンサルティング会社
| 状況 | サービスページに「業務改善を伴走支援」「豊富な実績」と記載。アクセスはあるが問い合わせに至らず、届く問い合わせも「料金を教えてほしい」に偏っていた。 |
|---|---|
| 原因 | 工程・担当者・判断基準・終わり方の4つがいずれも書かれておらず、発注側が自社の案件に当てはめて確かめる材料がなかった。読者は確かめられないため、価格だけを聞いて比較していた。 |
| 打ち手 | 直近3案件の記録から工程を書き出し、各段階に提出物と発注側の作業を付けた。判断が分かれた場面と根拠を事例ページに記載し、料金ページには金額ではなく費用の決まり方と範囲外を明示した。 |
| 結果 | 事例・料金ページへの到達と読了が先に動き、問い合わせ本文に自社の状況と期間の希望が書かれるようになった。商談の初回で条件のすり合わせから始められる件数が増えた。 |
書き換えの前後を、同じ項目で比べる
| 観点 | 書き換え前 | 書き換え後 |
|---|---|---|
| 工程 | 課題整理から実行まで一気通貫で支援 | 初月:現場ヒアリングと業務棚卸し(提出物:業務一覧/貴社作業:担当者5名へのヒアリング調整) |
| 担当者 | 経験豊富なコンサルタントが担当 | 製造業の間接部門を中心に、従業員50〜300名規模の案件を担当。定例には実務担当者が出席 |
| 判断基準 | 御社に合わせて最適なご提案を | 短期の工数削減と、仕組みの定着が対立する場合は、定着を優先する。理由と過去の判断例を併記 |
| 終わり方 | 料金はお問い合わせください | 費用は対象部門数と期間で決まる。システム開発と外部ツールの費用は範囲外 |
書き換えたのは事実ではなく、事実の出し方である。“対応できます”を“この順で、この基準で進めます”に変えると、比較の土俵そのものが変わる。
スリーハンドレッドは、工程の棚卸しから導線までを一続きで設計する
無形商材の導線設計でつまずくのは、たいていサイトの側ではなく、その手前にある。自社が実際にやっていることを、発注側の言葉で説明できる状態になっていないことが多い。ここを飛ばしてページだけを作り変えても、空白は残る。
私たちは、顧客理解と強みの言語化を先に行い、そこで取り出した工程と判断基準を、サイトのどのページに置くかまでを一続きで設計している。工程を出せる会社だけが、価格以外の理由で選ばれる。自社のサイトにこの4つの空白があるかどうかは、無料診断で確認できる。
まとめ|無形商材は、中身を出したときだけ比較の土俵に乗る
無形商材のサイトから問い合わせが来ないのは、説明が足りないからではない。発注側が自社の案件に当てはめて確かめる材料——工程・担当者・判断基準・終わり方——が置かれていないからである。営業と会う前に候補選定が終わっている以上、この4つはサイト上になければ存在しないのと同じになる。
埋める材料は、すでに社内にある。直近の案件の記録を棚卸しし、分岐の根拠を言葉にし、置き場を決め、問い合わせ数の手前の行動で確かめる。見せられる中身を持っている会社が、見せていないだけという状態は珍しくない。
よくある質問
Q. 案件ごとに進め方が違うため、工程を固定して書けません。
分量と深さは案件ごとに変わるが、順序は繰り返し同じものを使っていることが多い。まず順序だけを書き、各段階に「案件によって変わる点」を1行添える形でよい。変わること自体を書けば、固定した約束にはならない。
Q. 判断基準を公開すると、競合に真似されませんか。
基準の文言は真似できるが、その基準で実際に判断してきた案件の蓄積は真似できない。判断基準は、過去の分岐と根拠をセットで示したときに説得力を持つ。文言だけを転載した競合との差は、むしろ開く。
Q. 担当者の顔や名前を出すことに社内の抵抗があります。
氏名や顔写真は必須ではない。扱ってきた案件の業界・規模・局面と、関与の度合い(定例に出るか、資料を作るか)を書けば、発注側が確かめたい点は満たせる。担当が案件ごとに変わる場合は、割り当ての決め方を書く方法もある。
Q. 金額を出さずに費用の話を書くと、かえって不信感を招きませんか。
不信感を招くのは、費用に触れていない状態である。金額の幅を出せない場合でも、何によって変動するのか、どこからが追加費用か、範囲外は何かを書けば、発注側は自社の条件で概算を作れる。範囲外を明示すると、書かれている範囲の信頼度が上がる。
Q. 施策の効果は、どのくらいの期間で見ればよいですか。
件数の変化を見る前に、事例・料金ページへの到達率と読了、問い合わせ本文の具体性を見る。これらは配置を変えた直後から動く。高価格帯の取引では検討期間が半年以上に及ぶ割合が54%という調査もあり、件数での評価はそれ以上の期間で行う方が実態に合う。
出典:ワンマーケティング「BtoB購買プロセス白書2025」(2025年9〜10月、600サンプル)/Gartner “Gartner Sales Survey Finds 67% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Experience”(2026年3月9日)/Gartner “Gartner Sales Survey Finds 74% of B2B Buyer Teams Demonstrate ‘Unhealthy Conflict’ During The Decision Process”(2025年5月7日)/トライベック・ブランド戦略研究所「BtoBサイト調査2025」