施工実績のページを増やし、現場写真を並べ、対応できる工事の一覧も載せた。それでもサイトから届く連絡は、金額だけを聞いてくる相見積りの依頼か、対応範囲の外にある工事の相談に偏る。手応えのある仕事は、結局これまでの付き合いから来ている。
この現象の原因は、実績の数でも文章のうまさでもない。建設・工事業のサイトには、確かめたいことがまったく違う2種類の読み手が同時に来ている。引き合いが噛み合わないのは、確かめたいことが違う2つの読み手に、施工実績という1本の材料で応えているからである。
スリーハンドレッドは、受注から逆算してサイトの導線を設計している。この記事では、建設・工事業の引き合いが通る2つの経路がそれぞれ何を確かめているのかを整理し、許可・審査・技術者・体制というすでに社内にある材料を、経路ごとに置き分ける手順を示す。
この記事の要点
- 建設・工事業の引き合いは、元請けからの協力会社としての引き合いと、発注者からの直接の引き合いという2つの経路を通る。2つは確かめたいことが違う。
- 元請け経路が照合しているのは、建設業許可の業種と区分、経営事項審査の結果、配置できる技術者、施工体制という、書面の審査項目とほぼ同じ項目である。
- これらは新しく作る材料ではなく、すでに社内にある。足りないのは材料ではなく、経路ごとの置き場所と宛名である。
引き合いが増えないのは、施工実績が足りないからではない
施工実績を増やす打ち手は、前提が一つ正しいときにだけ機能する。読み手が1種類であるという前提である。増やすべきなのは実績の数ではなく、実績に付ける“誰向けか”という宛名である。
実績を積み増しても噛み合わないのは、読み手が1種類ではないからである
全国の建設業許可業者数は483,700業者(令和6年度末)である。同じ工事ができる会社は、発注側から見れば常に複数ある。この状況で施工実績の点数だけを増やしても、「ほかの候補と何が違うのか」という問いには答えていない。
しかも、実績の見せ方には答えが一つではない。同じ工事の写真が、ある読み手には安心の材料になり、別の読み手には何の判断材料にもならない。読み手によって判断材料が変わるのに、サイトの側は1通りしか用意していない。
建設・工事業の引き合いは、2つの経路から来る
建設・工事業がサイトから受け取る引き合いは、性質の異なる2つに分かれる。どちらを主にするかで、載せるべき材料が変わる。
- 元請け経路。ゼネコン、ハウスメーカー、設備会社、同業の元請けから、協力会社・下請けとして声がかかる経路。多くは新規の協力会社を探しているか、既存の協力会社で足りない工種を埋めようとしている。
- 直接経路。施主、事業者、管理会社などの発注者から、工事そのものの相談として届く経路。相手は工事の専門家ではなく、何をどう頼めばよいかから迷っていることが多い。
この2つを分けずに1つのサイトで受けると、どちらにも中途半端な情報しか届かない。自社にとってどちらが主な経路なのかは、過去の受注の内訳を見れば分かる。
元請け経路と直接経路は、同じ実績を見て違う答えを探している
2つの経路は、探しているものが根本的に違う。元請けは「審査を通せる会社か」を確かめており、発注者は「任せて大丈夫か」を確かめている。
元請け経路|審査を通せるかを、書面と同じ項目で確かめている
元請けが協力会社を選ぶとき、その判断は感覚ではなく項目で行われる。工事に必要な許可の業種を持っているか、現場に配置できる技術者がいるか、体制を書面で出せるか。これらは元請け自身が発注者や行政に対して負っている義務から降りてくる項目である。
だから元請けの担当者がサイトを見る目的は、感心することではない。自社の審査項目を埋められるかどうかの照合である。埋まらない項目があれば、その時点で候補から外れる。
直接経路|工事がどう進み、どう終わるのかを着工前に想像しようとしている
一方、発注者は許可の区分や技術者の資格を見ても意味を読み取れない。代わりに確かめたいのは、工事が始まってから終わるまでに自分の生活や事業に何が起きるのかである。工期、騒音、近隣への説明、追加費用が出る条件、引き渡し後の対応。
この経路の読み手にとって、施工実績の写真は「きれいに仕上がるらしい」という以上の情報を持たない。仕上がりは見えるが、そこに至る過程が見えないためである。
2つの経路が探している材料は、ほとんど重ならない
同じサイトに来ていても、2つの経路が拾おうとしている情報は次のように分かれる。
| 観点 | 元請け経路 | 直接経路 |
|---|---|---|
| 読み手 | 元請けの工事部・購買部の担当者 | 施主・事業者・管理会社 |
| 目的 | 審査項目を埋められる会社を探す | 頼んでよい相手かを見極める |
| 最初に見る情報 | 許可の業種と区分、対応エリア、工種 | どんな工事を頼めるのか、相談の入口 |
| 次に確かめる情報 | 技術者の資格と人数の考え方、施工体制、安全と社会保険の状況 | 工期の目安、金額の前提、工事中の生活や営業への影響 |
| 実績に求めるもの | 工種・規模・元請か下請かの立場 | 自分と似た条件の事例と、その進み方 |
| 求める次の行動 | 会社概要と資料の提出、協力会社登録 | 現地の確認、概算の相談 |
重なっているのは「施工実績」の欄だけである。元請けが探すのは審査を通せる証拠であり、発注者が探すのは工事の進み方である。
原因1|許可・審査・技術者という“すでにある材料”が、サイトに出ていない
元請け経路が照合したい項目は、実は建設業の制度がすでに形にしている。建設業の選定材料の多くは、許可と審査という形で、すでに社内にある。
最初に照合されるのは、建設業許可の業種と区分である
建設業の許可は、土木一式工事・建築一式工事の2つの一式工事と27の専門工事を合わせた29業種に分かれている。元請けが探しているのは会社ではなく、この業種の区分で自社の工事に合う相手である。
区分はもう一段ある。発注者から直接請け負い、下請契約の請負代金の合計が5,000万円以上(建築工事業は8,000万円以上)となる工事を施工するには、特定建設業の許可が必要になる。この金額は令和7年2月1日に引き上げられた。
逆に、建築一式工事で1,500万円未満または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事、それ以外で500万円未満の工事は、許可が不要な軽微な建設工事とされている。自社がどこまでの規模を受けられるのかは、この区分で説明できる。
公共工事を直接請け負う場合は、経営事項審査を必ず受けておく必要がある。経営状況(Y)、経営規模(X)、技術力(Z)、社会性等(W)で構成され、その合計が総合評定値(P)になる。結果通知書の有効期間は審査基準日から1年7ヶ月である。
公共工事では、体制が書面で提出される前提になっている
元請けが協力会社の体制を細かく聞くのは、慎重だからではない。制度上、書面にして出す義務があるからである。民間工事では下請契約の請負代金の合計が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上で施工体制台帳の作成義務が生じ、公共工事では下請契約の額にかかわらず作成と写しの提出が必要になる。
施工体系図には、その工事に関わる全ての建設業者名と技術者名を記載する。つまり元請けは、協力会社の名前と技術者を書面に書き込む立場にある。書けない相手は選べない。
技術者についても金額で線が引かれている。下請契約の請負代金の合計が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上になる場合は、主任技術者に代えて監理技術者を置く。請負代金が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上で、公共性のある施設等に関する重要な建設工事であれば、現場ごとに専任の技術者が必要になる。
材料は作るのではなく、出すだけで足りる
ここまで挙げた項目は、どれも新しく作るものではない。許可通知書、経営事項審査の結果通知書、技術者の資格、社会保険の加入状況、建設キャリアアップシステムの登録。すでに社内の書類棚にある。
建設キャリアアップシステムは、技能者189万人、事業者31.5万社が登録している(2026年7月末時点)。登録していること自体が珍しいわけではないが、登録していると書いていないサイトは、照合の段階で判断を保留される。
出していないだけで確かめられない項目は、確かめられない項目としてそのまま扱われる。元請けの担当者は、確かめるために電話をかけるのではなく、確かめられる別の会社を見る。
原因2|工期と現場のリスクを、誰がどう引き受けるのかが書かれていない
直接経路の読み手が着工前に知りたいのは、仕上がりよりも過程である。ところが工事会社のサイトは、過程をほとんど語らない。
見積りが比較されるとき、差がつくのは金額ではなく前提条件である
発注者が複数社から見積りを取ると、金額の内訳よりも先に「この金額でどこまでやってくれるのか」が分からなくなる。既存部分の状態が想定と違ったとき、近隣から要望が出たとき、天候で工期が延びたとき、誰の費用と責任になるのか。
この前提条件を先に書いている会社は少ない。だから発注者は、比較できる唯一の軸である金額で判断する。安値で比較されるのは、ほかに比べられる材料を出していない結果である。
時間外労働の上限規制が、工期の約束の意味を変えた
建設業には令和6年(2024年)4月から時間外労働の上限規制が適用されている。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合でも、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2〜6か月平均で80時間までである。時間外労働は年720時間まで、月45時間を超えられるのは年6回までとされている。
担い手の側も薄くなっている。建設業就業者の約4割が55歳以上で、29歳以下は約1割である。技能者では60歳以上が約25%、29歳以下が約12%で、就業者数は平成9年のピーク時から約3割減っている。
工期を約束できるかは、いまや気合ではなく、人の確保と労働時間の設計の問題である。だからこそ、工期をどう組み、遅れが出そうなときにどう知らせるのかを書いた会社は、書いていない会社と区別される。
天候・近隣・既存建物という、現場ごとの変数の扱いを先に書く
工事は同じ図面でも現場ごとに条件が変わる。この変数を隠すのではなく、扱い方を先に示すほうが信頼につながる。隠して着工すると、変更が起きた時点で説明が不利になる。
書くのは見通しではなく、取り決めの仕方である。どの条件で追加費用の相談になるのか、近隣への説明は誰がいつ行うのか、工期が動くときは何日前に伝えるのか。決め方を書けば、結果を約束しなくても判断材料になる。
原因3|問い合わせ窓口が1つしかなく、経路の違いが吸収されていない
材料を載せても、入口が1つのままでは経路は分かれない。窓口が1つしかないサイトは、経路の違いを問い合わせる側に押し付けている。
「お問い合わせ」1つでは、協力会社登録も工事相談も同じ箱に入る
元請けの購買担当者と、初めて工事を頼む施主が、同じフォームに同じ項目を書く。すると届いた内容からは、どちらの経路なのかを読み取るために一往復が必要になる。その一往復の間に、元請けは別の会社に声をかけている。
フォームを分けるだけでも効果はあるが、本質は入口の言葉である。「協力会社をお探しの元請け企業の方へ」と「工事をご検討中の方へ」を分けて置けば、読み手は自分で経路を選ぶ。
元請けが求めているのは打ち合わせではなく、会社概要の提出である
元請け経路の次の行動は、面談ではないことが多い。まず会社概要と許可の写し、技術者の一覧、安全に関する記録を送ってほしいという段階である。ここで「まずはご相談ください」としか書いていないと、相手は手間が増えると判断する。
会社概要を1つのファイルにまとめてダウンロードできるようにし、協力会社登録の申し込み欄を別に置く。それだけで、元請けの担当者が社内で回せる形になる。問い合わせが受注につながらない原因の多くは、問い合わせの後ではなく、その手前の設計にある。
2つの経路に材料を置き分ける、導線設計の4ステップ
ここまでの整理を、実際に手を動かす順番に置き換える。導線設計は、経路を決める・材料を出す・置き分ける・確かめるの順に進む。
STEP1|切り分け:どちらの経路を主にするかを決める
過去の受注を、元請け経路と直接経路に分けて数える。売上の大きい方と、これから増やしたい方が一致しないこともある。その場合は増やしたい方を主に置き、もう一方は入口だけを用意する。両方を同じ強さで扱うと、どちらにも届かない。
STEP2|棚卸し:すでにある材料を、審査項目の順に書き出す
許可の業種と区分、経営事項審査の結果、技術者の資格と人数、施工体制、安全の記録、社会保険と建設キャリアアップシステムの状況。この順で、社内にある書類を一覧にする。自社の強みを探す作業とは違い、ここでは新しく言語化するものはほとんどない。
STEP3|配置:経路ごとに入口を用意し、実績に照合項目を付ける
元請け向けと発注者向けに、それぞれ1ページを用意する。施工実績には、工種・規模・工期・元請か下請かの立場を添える。写真だけの実績は、照合できる形に並べ直すことで、初めて検索と審査の材料になる。
STEP4|検証:届いた引き合いが、経路どおりに分かれているかを見る
経路別の件数と内容を毎月見る。狙った経路の引き合いが増えていないなら、材料の不足ではなく入口の言葉を疑う。どの受注からの距離が近いキーワードで入ってきたのかも、同時に確認する。
事例で見る|“施工実績は豊富にあります”を、経路ごとの材料に置き分ける
次は説明のための仮設例であり、実在の企業や実績ではない。成果の数値は示さず、設計の考え方だけを示す。
| 状況 | 内装仕上工事を主とする工事会社。施工実績のページに現場写真を数多く掲載しているが、サイトから届くのは対応範囲外の小規模な相談と、金額だけを尋ねる相見積りが中心だった。 |
|---|---|
| 原因 | 実績が写真と工事名だけで構成され、工種・規模・元請か下請かの立場が書かれていなかった。許可の業種や技術者の体制はサイトに一切出ておらず、問い合わせ窓口も1つだけだった。 |
| 打ち手 | 主な経路を元請け経路と定め、許可の業種と区分、配置できる技術者、施工体制、安全と社会保険の状況を1ページにまとめた。施工実績に照合項目を追加し、協力会社登録の申し込み欄と会社概要のダウンロードを別に用意した。発注者向けには、工事の進み方と前提条件を説明する入口を1つ残した。 |
| 設計上の想定 | 元請けの担当者が、電話をかけずに審査項目を照合できる状態になる。届く引き合いは経路ごとに分かれ、対応範囲外の相談は入口の段階で減る。 |
この例で増やした情報は、ほとんどが元からあった書類である。材料を増やさずに宛名を付け直すだけでも、届く引き合いの中身は変わりうる。
スリーハンドレッドは、経路の切り分けから材料の配置までを一続きで設計する
サイトの改修は、見た目を整える作業から始めると、経路の切り分けが最後まで決まらない。私たちは材料を作る前に、誰に向けた材料なのかを決めるところから始める。
いまのサイトがどちらの経路に向いているのか、審査項目のうち何が出ていないのかは、外から見れば判別できる。現状の確認は無料診断で受け付けている。業種ごとの考え方は、士業や無形商材の記事でも扱っている。
まとめ|施工実績は、誰に向けた材料かを決めたときだけ引き合いにつながる
建設・工事業のサイトで引き合いが噛み合わないのは、実績が足りないからではない。元請け経路と直接経路という、確かめたいことが違う2つの読み手に、同じ材料で応えているからである。
元請けが探しているのは審査を通せる証拠で、その多くは許可と審査の形ですでに社内にある。発注者が探しているのは工事の進み方で、これは結果ではなく決め方を書けば示せる。施工実績は、誰に向けた材料かを決めたときだけ、引き合いの材料になる。
よくある質問
Q. 元請け経路と直接経路の両方を増やしたい場合、どちらを先に整えるべきか
過去の受注で多い方を先に整えるのが基本である。材料がすでに社内にある元請け経路のほうが、着手から公開までが短い。直接経路は工事の進み方や前提条件を書き起こす必要があるため、時間がかかる。片方を整えてから、もう一方に進むほうが早い。
Q. 経営事項審査を受けていない場合、載せる材料が無いのではないか
経営事項審査は公共工事を直接請け負う場合に必要な審査であり、民間工事を中心とする会社では受けていないことも多い。その場合は、許可の業種と区分、技術者の資格、施工体制、安全と社会保険の状況を出すだけでも照合はできる。受けていない審査を受けたように書かないことのほうが重要である。
Q. 施工実績は、どこまで具体的に書いてよいか
発注者名や所在地を出せない現場は多い。その場合も、工種・規模の目安・工期・元請か下請かの立場は書ける。固有名詞を伏せても、照合に必要な項目は残る。守秘義務の範囲は元請けや発注者に確認し、公開できる範囲を書面で決めておくとよい。
Q. 協力会社登録のページを作ると、価格だけで比較されないか
価格で比較されやすくなるのは、価格以外に比べられる項目が無いときである。許可の区分、配置できる技術者、対応できる工期の条件を先に示すと、比較の軸が増える。逆に、金額の前提条件を書かないまま見積りだけを出すと、価格の比較しか残らない。
出典:国土交通省「建設業の許可とは」/国土交通省「よくある問合せ(技術者制度)」/国土交通省関東地方整備局「経営事項審査制度の概要について」/国土交通省中部地方整備局「適正な施工の確保」(令和7年2月)/国土交通省「令和6年度末の建設業許可業者数調査の結果」/国土交通省「建設キャリアアップシステムの利用状況」/国土交通省「第三次・担い手3法|改正の背景」/厚生労働省「建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています」