相見積もりで失注した案件を振り返るとき、「価格が高かった」という一文で記録が終わっていることがある。営業担当者が買い手からそう聞き、そのまま日報やCRMに書き写す。経営者の側も、報告を受けて「もう少し安くできないか」と考える。

だが、この一文には比較の相手も、比較された軸も残っていない。何と比べて高かったのか、価格以外のどこで差がついたのかが抜け落ちているため、次の案件で打てる手が値下げしか残らない。「価格が高かった」という記録は、比較の軸を相手に預けた事実を隠している。

私たちは、受託型のBtoB事業を営む企業のWeb集客を支援している。この記事では、相見積もりでの失注を価格の問題として処理してしまう構造を解きほぐし、比較の軸を自社から出すための3つの材料と、その置き場所を整理する。提案書の書き方の話ではなく、提案書が読まれる前に何が決まっているかの話である。

この記事の要点

  • 買い手が発注先選定で重視する項目は、品質72%・信頼性68%がコスト67%より上にある。価格は最上位の判断軸ではない。
  • 営業担当者と会う前に、85%の買い手が候補を絞り終えている。提案書は、すでに作られた軸の上で採点されている。
  • 比較の軸は対応範囲/進め方と体制/増え方とやめ方の3つに分けられる。1つを選び、提案書ではなくサイトに先に置く。

「価格が高かった」と記録された失注は、次の案件で何も変えられない

失注理由の記録は、買い手が口にした言葉をそのまま写したものになりやすい。買い手にとって「高かった」は、断る理由として最も摩擦が少ない言い方だからである。

“価格で負けた”の内側で起きていること 売り手の記録と買い手の判断は、別の軸で動いている 売り手の記録|3つの単純化 失注理由を“価格が高かった” で記録する(22.0%) 比べた相手と、落ちた軸を 書き残していない 次の提案で、値下げだけを 検討する 買い手の判断|重視した順 品質72%・信頼性68%が コスト67%より上にある 対応範囲の不足で39.1%が 候補から外れる 業界特化情報が候補入りを 左右する(62.5%) 比較の軸を、誰が出したか 値下げ以外の打ち手が残らない 同じ軸で、次の案件も落ちる
図1|「価格で負けた」という記録は、買い手が実際に見ている軸を写していない。

失注理由の記録は、買い手の言葉をそのまま写している

BtoB営業の担当経験者を対象にした調査では、失注要因として「価格が高かった」が22.0%、「競合との差別化ができなかった」が同じく22.0%挙げられている。続いて「提案内容が顧客の期待に合っていなかった」16.0%、「担当者との信頼関係を築けなかった」16.0%である。

この調査は対象が50サンプルと小規模で、傾向の参考にとどまる点に注意が必要である。ただし、売り手自身の認識においてすら、価格と並ぶ比率で「差別化が伝わらなかった」が挙がっている事実は重い。価格は、失注理由の中の一つであって、過半を占める単独の原因ではないと考えられる。

価格より上に置かれている項目が、2つある

買い手側の調査を見ると、順位はさらに明確になる。全国の経営者・役員・購買担当者600サンプルを対象にした2025年の調査では、発注先の選定で重視する項目は「品質」が72%、「信頼性」が68%、「コスト」が67%だった。

コストは重視されているが、品質と信頼性の下に置かれている。数ポイントの差を過大に読むべきではないが、少なくとも「価格が最優先で決まる」という前提は、買い手の回答からは支持されない。

「高い」は、比べた相手と軸がそろって初めて意味を持つ

価格が高いという評価は、単独では成立しない。同じ範囲の仕事を、同じ進め方で、同じ体制で引き受ける競合がいて、その見積もりが安かったときに初めて「高い」が成立する。

逆に言えば、範囲や進め方や体制が書かれていなければ、買い手は金額の数字だけを並べることになる。比べる材料が金額しかない状態を作っているのは、多くの場合、売り手の側である。

買い手は、営業担当者と会う前に比較の軸を作り終えている

提案書で軸を作り直そうとしても間に合わないのは、軸が作られる時点が商談よりも前にあるからである。

営業面談の前に、85%が候補を絞っている

前述の2025年の調査では、営業担当者との面談前の状態について、29%が「ほぼ決まっている」、56%が「いくつかの候補に絞り込まれている」と回答している。合わせて85%が、会う前に候補の選定を済ませていることになる。

つまり商談の席は、候補を作る場ではなく、すでに作られた候補の中で順位を確かめる場になっている。

課題の明確化も、接触前におおむね終わっている

金額の大きい案件でも同じ傾向が出ている。年間契約金額または一括導入費用が300万円以上のBtoB商材の導入・見直し・乗り換えに、直近12か月以内に2名以上で関与した307名を対象にした2026年の調査では、営業接触前に購買プロセスが平均で約4割に到達していた。課題の明確化については「完了またはおおむね進めていた」が計70.4%に達する。

課題が整理され、候補が絞られた後に、提案書は届く。提案書は、買い手がすでに作り終えた軸の上で採点されている。

だから、提案書で軸を作り直すのは遅い

提案書には、自社の強みを比較の軸として提示する力がある。しかしその力が働くのは、候補に残っている場合に限られる。候補から外れた相手の提案書は、そもそも開かれない。

軸を作る競争は、提案書が届く前に終わっている。だとすれば、材料を置く場所は提案書より手前になければならない。

軸1|対応範囲|価格を比べる前に、土俵に乗っているかが決まる

比較の軸のうち、最初に効くのは対応範囲である。範囲が合っていなければ、金額がいくらであっても比較の対象にならない。

対応できる範囲の不足で、39.1%が候補から外れている

前述の307名を対象にした2026年の調査では、候補から外した理由として「自社の課題に対応する機能が不足していた」が39.1%挙げられている。受託型のサービスに置き換えれば、対応できる業務の範囲、対応できる業種、対応できる規模のことである。

価格を比べてもらう前に、土俵に乗っているかどうかが決まっている。この段階で落ちた案件は、失注として記録されないことも多い。問い合わせが来ていないので、そもそも案件として数えられないためである。

「業界特化情報」が、候補入りを左右している

同じ調査では、候補を選ぶ際の「業界特化情報」の影響について、「候補に入れる決め手になった」が16.9%、「後押しした」が45.6%で、合わせて62.5%が候補入りに影響したと回答している。

自社の業種での実績や、その業種固有の制約を踏まえた記述が、候補入りの段階で効いていると考えられる。業種別の事情に触れた記述は、対応範囲の説明としても機能する。

対応範囲は、できることとできないことを対で書く

対応範囲を書くときに抜けやすいのは、対応できないことの明示である。できることだけを並べると、範囲の輪郭がぼやけ、買い手は自分の案件が該当するかを確かめられない。

  • 対応する業務。どの工程を引き受け、どの工程は引き受けないのかを工程名で書く。
  • 対応する規模と業種。得意な規模帯と業種を書き、経験が浅い領域はその旨を書く。
  • 対応しない条件。引き受けられない依頼の条件を先に書く。該当しない買い手が離脱するのは、損失ではない。

対応できないことを書くと問い合わせが減ると思われがちだが、減るのは該当しない問い合わせである。範囲の外にいた相手との商談に使っていた時間が戻る。

軸2|進め方と体制|同じ金額が、違う意味に見える

対応範囲が合っていても、進め方と体制が書かれていなければ、買い手は金額の比較に戻る。見積もりの総額が同じなら、安い方が選ばれる。

見積もりの内訳ではなく、工程と関与の範囲を出す

内訳を細かくしても、買い手が比べられるようになるとは限らない。項目名が自社の都合で付けられていると、他社の見積もりと項目が対応しないためである。

比べられるようにするには、金額の分解ではなく工程の分解が必要になる。どの工程が含まれ、各工程で誰が何をするのか、買い手側で用意するものは何かを書く。同じ金額でも、工程と関与の範囲が書かれていなければ高く見える。

誰が手を動かすのかを、提案書より前に書く

受託型の仕事では、担当者が誰かによって成果が変わる。買い手もそれを知っているため、体制は金額の意味を変える情報になる。

ただし、個人名や経歴を並べるだけでは足りない。関与の度合いを書く必要がある。

  1. 主担当:案件に継続して関与する担当者と、その関与の頻度を書く。
  2. 作業の担い手:実作業を社内で行うのか、外部に委託するのかを明示する。
  3. 交代の条件:担当者が変わる場合の条件と、引き継ぎの方法を書く。

事例|「一式」と書かれた見積もりは、比較の対象から外れる

以下は構造を説明するための仮設例であり、実在の企業や実績ではない。

状況制作会社が、サイト改修の見積もりを「サイト改修一式」として提出した。競合は工程ごとに分けた見積もりを出していた。
原因買い手は2社の見積もりの項目を対応付けられず、総額だけを並べた。範囲の広さが金額に反映されていることが読み取れなかった。
打ち手工程名で見積もりを分け、各工程に関与する担当と、買い手側で用意するものを併記した。
結果総額の比較ではなく、工程の範囲の比較に土俵が移った。

この仮設例が示すのは、提出物の体裁の問題ではない。項目の立て方が、買い手の比較の仕方を決めているということである。

軸3|増え方とやめ方|総額の比較可能性は、条件で決まる

3つ目の軸は、契約後に金額がどう動くかである。初期の金額が同じでも、増え方とやめ方が違えば、買い手が負う総額は変わる。

関与人数が増えるほど、総額の説明責任は買い手側に移る

前述の2025年の調査では、購買に関与する人数は金額帯によって大きく変わる。300万円未満の低価格帯で平均5.6人、中価格帯で14.4人、高価格帯で18.3人である。高価格帯では検討に「半年以上」を要する割合が54%に達する。

関与者が増えると、窓口となった担当者は社内で金額を説明する側に回る。このとき必要になるのは値引きではなく、金額の決まり方である。費用の考え方の出し方については、別記事(【士業向け】費用ページは「載せるか載せないか」で迷うところではない)で詳しく扱っている。

増える条件と、やめるときの条件を先に書く

金額が増える条件が書かれていないと、買い手は最悪の場合を想定する。想定された上限が、他社の提示額との比較に使われる。

  • 増える条件。どの変化で金額が増えるのか(対象範囲の追加、回数の増加など)を条件として書く。
  • 増え方の幅。一律の単価ではなく、増減の幅と算定の基準を書く。
  • やめ方。契約期間、終了の申し出の方法、終了後の成果物やデータの扱いを書く。

総額の比較可能性は、増える条件とやめる条件で決まる。やめ方が書かれているほど、始めるときの心理的な負荷は下がる。

稟議に乗る形に整える

組織決裁の案件では、窓口の担当者が社内で材料を使い回す。提案書の文言がそのまま稟議の資料に転記されることも多い。稟議で必要になる材料の種類については、別記事(「社内で検討します」のあとに起きていること)で整理している。

比較の軸を自社から出す、3つのステップ

ここまでの3つの軸を、順番に手順へ落とす。値下げを検討する前に行う作業である。

比較の軸を自社から出す、3つのステップ 順番が重要。値下げを検討する前に、落ちた軸を特定する 1 軸で記録する 失注理由を“価格”では なく、落ちた軸で残す 比べた相手と落ちた軸を セットで書き残す 2 軸を1つ選ぶ 3つの軸から、自社が 勝てる軸を1つ決める 3つ全部で勝とうとすると どれも伝わらない 3 サイトに置く 提案書ではなく、サイト の対応範囲ページに置く 候補入りの前に読まれる 場所に材料を置く 比較の軸を自社から出す = 価格以外で選ばれる
図2|比較の軸は、記録・選択・配置の3つの手順で自社から出す。

STEP1|記録を、価格から軸に変える

失注理由の記録欄を「価格」「その他」で運用している限り、何も蓄積されない。比べた相手と、落ちた軸をセットで書き残す形に変える。

軸は、この記事の3つ(対応範囲/進め方と体制/増え方とやめ方)を選択肢として置けばよい。選択肢に迷った案件は、買い手に確認した事実だけを書く。推測は推測と分けて記録する。

STEP2|3つの軸から、自社が勝てる軸を1つ決める

3つすべてで優位を主張すると、どれも伝わらない。既存顧客が自社を選んだ理由に最も近い軸を1つ選ぶ。自社の強みを特定する手順は、別記事(自社の強みの見つけ方)で扱っている。

勝てる軸は3つ全部ではなく、1つに絞って出す。残る2つは、買い手が確かめられる水準で書いておけば足りる。

STEP3|その軸を、提案書ではなくサイトに置く

選んだ軸は、対応範囲のページ、進め方のページ、費用の考え方のページに置く。提案書にも書くが、置き場所の優先順位は逆になる。候補入りの前に読まれる場所が先である。

効果の確認は、問い合わせ件数ではなく手前の行動で行う。どのページに到達し、どこで離脱したかを見る。この測り方は、別記事(問い合わせの”手前”に、見る指標がない)で詳しく扱っている。

提案書を直す前に、サイトの対応範囲ページを直す

提案書の改善は効果があるが、順番としては後になる。提案書が読まれる時点では、比較の軸はすでに固まっている。

提案書は、候補に入った後にしか読まれない

候補から外れた相手の提案書が読まれないことは、先の調査が示す85%という数字の意味するところである。提案書の精度を上げても、候補入りの確率は変わらない。

問い合わせが受注につながらない原因の切り分けについては、別記事(問い合わせが受注につながらない3つの原因)で3つの段階に分けて扱っている。

軸はサイト上で、買い手の判断に先回りして決まる

買い手がサイトで確かめるのは、自分の件が対象かどうか、頼んだ後に何が起きるか、誰が進めるのか、いくらで何が決まるのかである。この順で判断が進む構造は、別記事(BtoBで問い合わせが増えないサイトは、4つの判断で止まっている)で整理している。

比較の軸は、提案書より前にサイトで決まっている。だから直す順番は、提案書よりサイトが先になる。

スリーハンドレッドは、価格表ではなく比較の軸から設計する

私たちは、価格の見せ方を整える前に、買い手が何で比べているかを先に決める。対応範囲、進め方と体制、増え方とやめ方のどれで選ばれてきたのかを既存顧客から洗い出し、その軸をサイト上の材料に落とす。

値下げの余地を探すのではなく、比べられ方そのものを設計し直す。無料診断では、自社サイトに3つの軸のどれが書かれていないかを確認している。

まとめ|「価格で負けた」は、比較の軸を相手に預けた結果である

買い手が重視する項目は、品質と信頼性がコストより上にある。候補の絞り込みは営業担当者と会う前に85%が終わっており、対応範囲の不足で39.1%が候補から外れている。価格は、比較の軸が1本しかないときに表に出る理由である。

比較の軸は、対応範囲、進め方と体制、増え方とやめ方の3つに分けられる。1つを選び、提案書ではなくサイトに置く。失注理由を軸で記録し直したときだけ、次の案件の打ち手が変わる。

よくある質問

Q. 実際に競合より価格が高い場合はどうすればよいか

価格差の理由を、範囲・進め方・体制の違いとして書くことになる。同じ範囲で同じ進め方なら、価格差は正当化しづらい。範囲や関与の度合いが違うのであれば、その違いを買い手が確かめられる形で書く。価格を下げる判断自体を否定するものではないが、何を削ったのかを明示しない値下げは、次の案件でも同じ交渉を招く。

Q. 対応できないことを書くと、問い合わせが減るのではないか

減るのは、範囲に該当しない問い合わせである。該当しない相手との商談は、受注につながらないまま工数を消費する。件数ではなく、商談につながった比率で効果を見ることを推奨する。ただし件数の変化は一定期間で振れるため、判断には複数月の推移が必要になる。

Q. 失注理由を買い手に聞いても、本当のことを教えてもらえないのではないか

そのとおりで、買い手の回答をそのまま原因として扱うことは勧められない。確認できる事実(比べた相手、提出した範囲、質問された項目)と、買い手が述べた理由を分けて記録する。質問された項目の偏りは、どの軸が確かめられなかったかの手がかりになる。

Q. 3つの軸のうち、どれから手を付けるべきか

対応範囲からである。範囲が合っていなければ、進め方や条件を書いても比較の対象にならない。対応範囲のページを直した上で、進め方と体制、増え方とやめ方の順に進めるのが基本の順序になる。

出典:ワンマーケティング「BtoB購買プロセス白書2025」(2025年9月30日〜10月1日調査、600サンプル、全国20〜65歳の経営者・役員・購買/契約担当者)/IDEATECH・デマジェン総研「BtoB大型購買の実態調査」(2026年3月23日〜26日調査、307名、直近12か月以内に300万円以上のBtoB商材の導入等に2名以上で関与)/NEXER Group・CLF PARTNERS「BtoB営業に関する調査」(2026年7月16日〜23日調査、50サンプル、BtoB営業の担当経験者。小規模調査のため参考値)